トランプ政権における経済政策の司令塔であった国家経済会議(NEC)のゲーリー・コーン委員長が2018年3月6日、辞任を表明しました。トランプ政権では、数少ないバランス感覚を持った閣僚であり、事態は深刻です。
トランプ政権では数少ないバランス感覚を持った経済閣僚
コーン氏は米投資銀行ゴールドマン・サックスのCOO(最高執行責任者)からトランプ政権の経済司令塔であるNECのトップに転じました。
トランプ政権において経済政策立案に影響力を持っていたのは、コーン氏、ロス商務長官、ナバロ通商製造政策局長の3名です。このうちロス氏とナバロ氏は、保護主義的な主張で知られており、特にナバロ氏は貿易戦争も辞さないというかなりの強硬派です。
一方、コーン氏は著名投資銀行出身でバランス感覚を持つ人物との評価でした。トランプ政権が発足した当初、保護主義の嵐が吹き荒れるのではないかと市場は警戒しましたが、こうした懸念を払拭する役割を果たしてきたのがコーン氏です。
今回、コーン氏が辞任に至ったのは、トランプ政権が鉄鋼とアルミの輸入制限に踏み切ったことが原因とされています。
トランプ氏がどこまで認識しているのか不明
トランプ氏はよく交渉材料の一環として、厳しい口調で貿易相手国を批判することがあります。市場では、こうした批判はあくまで交渉のテクニックであると認識していましたが、今回の輸入制限措置の発動は様子が異なります。
今回、適用された通商拡大法232条は、米国が主導したWTO(世界貿易機関)の枠内での輸入制限ではなく、安全保障という自由貿易の枠外での措置となり、極めてリスクが大きいものです(詳細については「トランプ大統領が表明した輸入制限措置が極めて異質である理由」を参照してください)。
トランプ氏自身にその認識があるのかは不明ですが、コーン氏のような人物から見ると、この措置は一線を越えた措置と映るでしょう。双方に埋めがたい溝ができたことは容易に想像ができます。
今後、トランプ政権には市場とのバランスをうまく保つ知恵を持った閣僚がいなくなりますから、貿易交渉の行方は不安定にならざるを得ません。もっとも重要なのは、一連の輸入制限措置が、同じ貿易交渉といっても、スジのよくないものであることをトランプ氏自身が認識しているかどうかです。
このあたりは時間が経過してみないと何ともいえません。市場はしばらくリスク回避モードになることは確実でしょう。また、コーン氏の辞任をきっかけに、米国が保護主義に傾いてしまった場合には、世界経済は大きな打撃を受けるでしょう。
保護主義的な貿易政策が世界経済にとってマイナスとなる理由については、以下の記事「保護主義が世界経済にとってデメリットになる理由(比較優位説)」を参照してください。