加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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職場パワハラ問題の根本原因は硬直化した労働市場

 

 職場のパワハラによる自殺が話題になっています。世間では、どうしたらパワハラによる自殺を防げるのかという議論が行われているようです。

 もちろんパワハラそのものは論外であり許されることではないのですが、問題はなぜ自殺に追い込まれる状態にまでなってしまうのかということです。

 この背後には、適度の競争による人の入れ替えや、働き方の自由を許容しない、日本の閉塞的な労働環境があると考えられます。根本的な解決を目指すには、ここにメスを入れる必要があります。

たった1回の就職試験でキャリアのすべてを決めるのは非合理的
 普通に考えれば、職場で毎日イジめられたり、場合によっては暴力を振るわれたりといった状況であれば、とてもそのような職場で働く気にはなれません。

 しかし自殺に追い込まれてしまう人は、なぜかそこに居続けてしまいます。いわゆるブラック企業と呼ばれる企業の場合には「退社した場合には大変な目に遭うぞ」と脅しているのかもしれませんが、そういった企業ではないケースもたくさんあります。
 例えば、福島県警で起こったパワハラによる自殺は、公務員ですから、ブラック企業とは正反対の環境なわけです。

 日本の場合には、若い時のたった一回の就職試験で、ほぼ一生のキャリアパスを決めてしまうという、摩訶不思議な人事システムが主流です。今でこそだいぶ転職市場が整備されてきましたが、それでも転職はそれほど容易なことではありません。

 さらに、日本には正社員、非正規社員という区別があり、正社員の人は好待遇が続き、非正規社員は非常に待遇が永続するということが当たり前になっています。しかも途中で、人がガラガラポンで入れ替わるということがほとんどありません。

 そうなってくると、公務員や大企業の正社員という立場は、ある種の人にとっては、大変な特権となってしまうわけです。この立場をやめてしまえば、特別な才能がある人以外は、二度と同じような好待遇で働けなくなる可能性が高いのですから、皆がこの立場にしがみつこうと必死になります。

pawahara

適度な競争が健全な社会を作る
 普通であれば、運悪く、劣悪な職場環境のところに就職してしまったら、転職を考えます。しかし、日本の場合には、一旦入った会社を辞めてしまったら、人生をすべて棒に振ってしまいます(少なくとも、棒に振ってしまうと本人が考えてしまいます)。

 パワハラを受ける人は、度重なる暴言などで、自分が悪いと思い込まされており、反論できない状態になっているといわれます。

 もちろんそういった面もあるのでしょうが、やはり最終的には、会社を辞めてしまったら、底辺の生活に落ちてしまうという恐怖感や、せっかくいい会社に入ったのに、親や親戚にどのように説明したらよいかという不安感が、大きく影響していると考えてよいでしょう。

 本コラムでは何度か言及しているのですが、社会の健全性や公平性を保つためには、適度な競争が維持され、一定数の人が常に入れ替わる環境が絶対に必要です。

 パワハラを受けてもいつもで辞められる、辞めても次の職場はすぐに見つかるという安心感があれば、受け止め方はかなり違うでしょう。

 同じ人たちだけが、一種の特権として集団を形成していることは、あらゆる面で、よい結果をもたらしません。こうした硬直化した社会システムが少し変わるだけで、不必要な不幸を減らすことができます。

 格差が問題なのは、格差そのものではなく、それが永続することです。格差が生じても、それが永続的なものでないのであれば、人は肯定的にこれを受け入れることができます。

 しかし格差が完全に利権となり、永続するということになると、これを肯定的に受け入れることはできません。最終的には敵視や嫉み、あるいは卑屈な取り入りといった形で不健全さが顕在化してくるのです。

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