先日、東京都議会のヤジが大きな問題となりました。都議会としては、「信頼回復を目指す決議案」を本会議で可決していますから、ひとまずは幕引きということなのでしょう。
しかし、今回のヤジ事件は、日本の将来が、かなり致命的な状況となっていることを、あらためて認識させる結果になったと筆者は考えています。その理由は、人口減少問題に対する驚くべき認識のなさです。
都議会ヤジが本当に意味すること
本コラムでは、ヤジの内容そのものについて議論するつもりはありません。ただ、こうしたヤジが議員という要職にある人から発せられたということは、この感覚は少なくない数の日本人の中で共有されていると判断することができます。
また実際に、前回の都知事選に出馬した田母神俊雄氏のように「心底ひどい発言と思っている人は少ないと思う」と発言している人もいますから、決して、異端の意見ということではないのでしょう。
筆者が絶望的な気分になってしまうのは、このヤジが深く女性を傷つけるからではありません(もちろん、その点でも論外な発言ではありますが)。日本が直面している人口減少の問題に対してあまりにも鈍感すぎるからです。ここまで来ると犯罪的ですらあると筆者は思っています。
日本は大変深刻な人口減少問題に直面しています。
内閣府では長期の労働力人口予測をまとめていますが、50年後の労働力人口は、現状維持で何もしない場合には2782万人も減少するとしています。現在の労働力人口は6600万人ですから、半分近くまで減ってしまう計算なのです。
これは大変な事態です。このところ外食産業などで人手不足が深刻になっていますが、その理由は若年層労働力の急激な減少です。
若年層の労働力人口はここ10年で2割減っているのですが、2割減っただけで、これだけの人手不足ですから、半分になってしまった時のことを考えると、非常に恐ろしくなります。
都議会ヤジも一種の平和ボケ
人口減少の影響を最小限にするためには、高齢者や女性の多くが職場に進出する必要があります。女性の登用は、機会均等といった「思想」として語られることが多かったのですが、これからの女性登用というのは、そんな甘い話ではありません。
女性も男性も、全員死ぬまで働かなければ、経済的豊かさを維持できないということなのです。おそらくヤジを飛ばした議員は、「女性が子供をたくさん産まないから人口が減るんだ」という程度の感覚なのだと考えられます。
大量生産のモノ作りが成功し、高度成長で、何も考えずにただ働けば儲かった時代には、そうした甘っちょろい考えでも何とか経済を回すことができました。
しかし、これからはそうではありません。日本は確実に貧しくなっており、グローバルな競争環境はより熾烈になっています。
全員が働き、全員が空いている時間を見つけて子育てし、家事をこなさなければ生きていけない時代に入ってしまったのです。そんな状況において、昭和な専業主婦的感覚で、ただ女性が子供を産めばよいという発想は、あまりにも浮き世離れしたものといってよいでしょう。
経済成長を決める要素は、人口と資本とイノベーションの3つしかありません。人口が激減し、資本が変わらない以上、全員が働く社会に移行するとともに、付加価値の高い産業構造に転換しなければ、確実に貧しくなっていくのです。
欧州ではすでにそうなっていますが、日本人の若者は全員大学に進学させ、より付加価値の高い仕事を目指して訓練を積ませるぐらいの覚悟がないと乗り切ることは難しいでしょう。こうしたヤジが出てくる土壌というのも、一種の平和ボケといえるものなのかもしれません。