トランプ大統領が表明した輸入制限措置が極めて異質である理由

 トランプ米大統領が、鉄鋼とアルミニウムの関税を引き上げ、輸入制限を課す方針を明らかにしました。この措置は極めて異質なものであり、従来の貿易交渉の枠組みとは異なります。実際に発動されれば、20年以上続いた自由貿易体制の大きな転換点となるかもしれません。

米国が主導した自由貿易体制で世界経済は拡大してきた

 トランプ氏は2018年3月1日、通商拡大法232条に基づき、鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課す方針を明らかにしました。主な対象国は中国と考えられますが、トランプ氏は具体的な対象国について明らかにしていません。場合よってはあらゆる国が対象となる可能性もあるため、各国は警戒感を強めています。

 米国の通商拡大法232条では、安全保障への脅威がある場合、大統領権限で輸入を制限できます。しかし、この条項を発動したケースはリビアやイランなどごくわずかしかありません。トランプ氏は安全保障上の理由を掲げていますが、今回の発動が貿易交渉を目的としているのは明らかですから、もし本当に発動された場合には、極めて異例の事態となります。

 米国は1995年にWTO(世界貿易機関)の設立を主導し、グローバルな自由貿易を主導してきました。2000年以降、世界経済がめざましい成長を遂げたのは、自由貿易体制の結果であることは明らかです。

世界貿易とGDP

今回の措置が極めて異質である理由

 トランプ政権は側近が相次いで辞任するなど、このところ厳しい状況に追い込まれています。トランプ氏は国内対策としてこの措置を打ち出したものと考えられますが、場合によっては思わぬ結果を引き起こすリスクがあります。その理由は、今回の発動が安全保障上の措置だからです。

 WTOの体制に基づき、ダンピングに対する対抗措置として関税を引き上げたのであれば、WTOのルールに基づいて国際交渉を行う余地が出てきます。WTOの枠内であれば、関税引き上げをチラつかせる発言もひとつの交渉材料と見なされます。しかし232条は安全保障上の措置であり、WTOの枠組みでは処理できません。

 つまり米国が232条を発動した場合には、既存のルール上で米国と交渉することはできないわけです。最悪のケースとしては貿易戦争のような状態に突入する可能性もゼロではありません。

 鉄鋼とアルミに関税が加えられたことで、すぐに世界経済が縮小したり、ブロック化することはありませんが、長い目で見た場合、自由貿易体制の転換点になる可能性は高まるでしょう。

 短期的には2016年からようやく回復した世界貿易に水を差す可能性があります。

 メーカーの中には、設備投資計画を縮小するところも出てきますから、各国の国内経済に大きな影響を与える可能性も高まります。特に日本経済は、米国の旺盛な輸入に頼る一本足打法です。日本が制裁の対象に入らなかった場合でも、世界貿易がシュリンクすることになれば、反動は極めて大きいでしょう。