経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経営論

小さくてもよいから、自分の陣地を作れ

加谷珪一の知っトク経営学 第10回
【集中化による競争戦略】

 競争戦略の3つめは集中化です。集中化は、これまで解説してきたコスト優位や差別化とは根本的に異なる戦略といえます。その理由は、特定分野にフォーカスし、他の分野はあえて放棄するという少々リスキーなものだからです。

集中化には2つの方法がある

 高級飲食店や高級ホテルに特化したネット上の予約サイト「一休」は、典型的な集中化戦略です。ネットであれば、どんなお店の予約を受付付けることも可能ですが、一休はあえて、高級店というマーケットに特化しました。

 実は集中化には二つの方向性があり、以前に解説したコスト優位と差別化という2つの競争戦略と密接に関係しています。同じ集中化でも、コストに力点を置いたコスト集中と、差別化に力点を置いた差別化集中の2つに分けて考えることが可能です。

 コスト集中は、特定分野の中でコスト優位を目指すものであり、差別化集中は特定分野で差別化を実施するというものですが、いずれにせよ、特定分野に集中するという戦略が成立するためには、ある条件をクリアしなければなりません。
 それは、特定分野において一定の顧客が存在していることと、その顧客に対して適切に製品やサービスを提供できる能力をその企業が持っていることです。

 一休の例で考えると、高級店というマーケットは、ネットが普及する前から確実に存在することが分かっていますから、この条件は簡単にクリアすることができます。もうひとつの特徴は、一休が先行者だったことによってもたらされたものになります。

 一休が本格的に高級店向け予約サイトを開始するまで、高級店に特化した予約サイトは存在していませんでした。高級店の予約サイトを運営するためのノウハウは、先行者として、自ら学んできたものになります。こうしたノウハウを後発の会社がすぐに蓄積することは困難ですから、これが優位性となるわけです。

 また、総合的な予約サイトがこの分野に進出しようとしても、コストがかかる割に市場が小さいことから、投資を躊躇してしまいます。結果として、同社の集中化戦略は維持することが可能だったわけです。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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集中化戦略を採用する場合には他は捨てる必要がある

 冒頭にも触れたように、集中化戦略は他の2つと比べて特殊な戦略です。場合によっては、劣勢になっている企業でも、逆転するチャンスをつかむことが可能となりますから、うまく活用すれば非常に効果的な「弱者の戦略」となり得ます。

 しかし、集中化による出世戦略を積極的に選択した場合には、それ以外の経路は絶たれてしまう可能性が高くなることも覚悟しておくべきでしょう。

 経営学の世界では、「スタック・イン・ザ・ミドル」と呼ばれますが、二兎追うものや、ましてや三兎を追うものは一兎をも得ずというのは常識になっています。

 ハンバーガーの業界では、マクドナルドは典型的なコスト優位戦略、モスバーガーは差別化戦略を採用しています。必要となるノウハウやリソースは異なりますから、両者が直接対決するということはあり得ません。両社とも中途半端にお互いの領域に進出するのは失敗の原因となります。

 しかし、こうしたスタック・イン・ザ・ミドルは、実は多くの企業が陥りがちです。

 戦略を立案する際には、トレードオフという概念をしっかり持ち、ひとつの戦略は排他的であるということをよく理解した上で、ドライに割り切らなければいけません。

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