経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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出光創業家が昭和シェルとの合併に猛反対。政府主導の合併シナリオは暗礁に

 石油元売り大手の出光興産と昭和シェル石油の合併が暗礁に乗り上げています。出光の創業家が合併に猛反対していることが直接的理由ですが、そもそもこの合併は企業が自主的に決断したものではなく、政府による事実上の要請で進められてきたものです。
 企業の合理化がなかなか進まないという一連の状況は、日本経済が抱える根本的な課題を象徴しているといえそうです。

出光は典型的な日本型経営企業
 出光興産の創業家は2016年6月28日、同社の株主総会において、昭和シェル石油との合併に反対する方針であることを明らかにしました。7月に入って創業家と経営陣が話し合いを行いましたが、議論は平行線のままとなっており、解決の糸口は見えていません。

 出光興産は創業家が株式の約34%を持つ典型的なオーナー企業です。これまで同社は「家族主義」を掲げ、社員は家族のように付き合うことをモットーとしてきました。外国からの買収やモノ言う株主にも極めて否定的で、こうした買収から会社を守るため、以前は株式の上場すらしていませんでした。労働組合は存在しておらず、まさに日本型経営の典型です。

 一方、昭和シェル石油は、シェルという名前から分かるように外資系企業です。同社の大株主には、石油メジャーであるロイヤル・ダッチ・シェル・グループの関連会社やサウジアラビアの国営石油企業などの名前が並びます。日本型企業の典型である出光とはまさに水と油の関係といってもよいでしょう。

 本来であれば、これほど社風の異なる企業が合併を議論することは考えられません。それにもかかわらず合併の話が進んでいたのは、これが事実上の政府からの要請によるものだからです。

 日本国内の石油業界は設備過剰の状態が続いており、再編やリストラが必至といわれてきました。しかし石油業界は変化を望まず、設備過剰の状態が長く続いたため、経済産業省は合理化を進めるよう提案していましたが、業界はなかなか動きません。
 これに業を煮やした経産省が「エネルギー供給構造高度化法」に基づき、設備削減や製油所再編を強く要請したことから、今回の合併交渉がスタートしました。要するに上からの構造改革というわけです。

 経産省の意向を受け、出光興産と昭和シェル石油の経営陣は合併の協議を行い2015年には基本合意に達していました。2017年4月の合併期日に向け具体的な協議を進めようというところでしたが、創業家の反対という思わぬ事態に陥ってしまったわけです。

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動けない産業界を作ってきたのはほかならぬ政府自身
 業界が置かれている状況を考えると、出光創業家の主張はわがままに聞こえなくもありません。しかし、一方で会社の所有者が会社の経営方針を決めるというのは資本主義社会の原理原則でもあります。もし、創業家の方針が間違っているのであれば、最終的に、時価総額の減少という形で経済的責任を負うのは創業家です。

 こうした一連のメカニズムこそが市場経済であり、ここで政府が合併を指導することは、あまりよい結果をもたらしません。

 経済産業省(旧通商産業省)は一貫して、政府主導の産業政策を提唱してきました。しかし、その結果はあまり芳しいものとはいえませんでした。通産省主導の国家プロジェクトは多くが失敗に終わっているからです。
 しかし、1990年代に入り、同省は市場メカニズムを軸に企業の競争を促進するという市場メカニズム重視型に政策を転換。ベンチャー投資に関する法体系を整備するなど一定の成果を上げました。

 しかし、こうした経済産業省の方針に対して、企業側の反応はかなり鈍いものでした。経産省は電機業界などに対して大規模なリストラやM&Aを実施するよう促してきましたが、企業側が難色を示したことでほとんど実現していません。

 経産省には、このままでは日本の製造業の競争力は低下するばかりという苛立ちが募っていました。安倍政権の発足と前後して、経済産業省はこれまでの方針を再転換し、かつてのように国家主導で産業政策を推進する傾向を強めています。その手始めが石油業界というわけです。

 日本の産業界がだらしないという経産省の苛立ちは正論かもしれませんが、仮にそれが本当だとすると、そのようなアニマルスピリットを失った産業界を作ってきたのは、ほかならぬ護送船団方式を主導してきた政府自身です。ここで再び、政府が介入を強めれば、企業のアニマルスピリッツをさらに奪ってしまうでしょう。

 動けない産業界と統制を強めようとする政府。まさにこれは、日本の構造的な問題そのものなのです。

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