英国のEU(欧州連合)離脱の是非を問う国民投票が2016年6月23日に実施されます。先週の株式市場は英国の離脱を懸念して、全世界的に大幅安となりました。
確かに英国がEUを離脱するという事態になった場合、世界経済に対する影響は計り知れないでしょう。英国の世論も拮抗しているといわれ、国民投票は余談を許さない状況です。
ただ、国民投票で離脱という結論になったとしても、複雑怪奇で知られる欧州社会です。表面上は離脱であっても、限りなく現状に近い状況を作り出すべく、気の長い交渉が始まる可能性もあります。離脱が即、世界経済の危機につながるという発想は捨てた方がよさそうです。
ノルウェーのようにEU非加盟でも実質的に加盟している国もある
欧州各国のEUとの関わり方は様々です。フランスやドイツ、イタリアなど、EUに属し、共通の通貨であるユーロを採用している国は、もっとも欧州らしい国ということになるでしょう。
しかし、英国はもともとポンドの通貨を維持しており、ユーロ圏には属していません。さらにいえば、完全に欧州国家でありながら、EUにも加盟していないノルウェーという国もあります。
EUとの関わり方にについては、大きく分けると、①貿易、②法令、③通貨、④予算という4つの分野があります。EUは欧州を単一国家とすることが理想ですから、最終的にはすべてが統一されることが望ましいということになります。しかし、現実には、国ごとに関わり方は様々です。
先ほど例に上げたフランスやドイツはすべてをカバーする関係ですが、英国は通貨については独自の通貨ポンドを守っています。しかしEUの法令を適用し、予算も拠出していますから、他の関係については限りなく、フランスやドイツに近いということになるでしょう。
一方、ノルウェーのように、EUには加盟していない国もあります。ではEUとノルウェー間の貿易や、ノルウェーの法律はどうなっているのかというと、実は英国とほとんど違いがありません。ノルウェーは、EUとの間で、人、モノ、サービス、資本の自由な移動を認めており、限りなくEUメンバーに近い関係を維持しています。
またノルウェーはEUに加盟していないにもかかわらず、EUの負担金も一部、拠出しています。ここまで来ると、独自の通貨クローネを持っているだけで、事実上、EU加盟国といってよい状況です。EUに加盟しているかどうかというのは、実は、かなり曖昧な概念であることが分かります。
離脱が決定しても、慌てる必要はない
英国のEU離脱派がもっとも懸念していることは、移民の流入についてです。それ以外についても、懸念材料はたくさんあります。
例えば、EUに加盟すると、ブリュッセルにいる慇懃無礼なEU公務員が、あれこれと内政に指示を出してきます。EU公務員は、日本の公務員以上に公務員的な人達ですから、こうしたEU的な雰囲気を嫌う英国人は少なくないでしょう。しかし、反EU感情は、決定的なものではなく、やはり最大の問題は移民であると考えられます。
そうなってくると、EU離脱派にとっては、移民の制限さえ実現すれば、大方の目標が達成されてしまうことになります。他の項目は限りなく現状のEU加盟と近い形にまとめ上げることができれば、仮に英国がEUを離脱したとしても、実質的には今と変わらないという状況を作り出すことは理論的に不可能ではありません。
欧州社会は、米国社会と比較すると、非常に面倒で複雑です。交渉ひとつとっても、文言のニュアンスをめぐって何日間も不毛な交渉を続けることを厭いません。ただ、今回のような事態においては、こうした欧州らしさは、むしろ利点となるでしょう。
英国内部にも移民問題を除いてはEUに残留した方がメリットが大きいと考える人が多いでしょうし、EU側も、英国が本当に離脱してしまうと、制度そのものが瓦解するリスクが高まってしまいます。離脱派のメンツを保ちつつ、EUの理念を継続できるような関係性の模索が始まる可能性は十分に考えられます。
最終的にどう転ぶかは分かりませんが、EU脱退の結果が出たからといって、すぐに危機的状況が訪れるとは考えない方がよいでしょう。危機への備えは重要ですが、もう少しゆったり構えた方がよいかもしれません。