加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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景気の悪化とG20声明から財政出動が模索されているが・・・・

 

 G20(20カ国・地域財務省・中央銀行総裁会議)において「あらゆる政策手段を用いる」という共同声明が採択されたことで、国内でも財政出動に向けた動きが活発化しています。しかし、日本は諸外国と異なり、政府債務という大きな問題を抱えています。このタイミングで財政出動を強化しても大丈夫なのでしょうか。

政府内部では早くも大規模な財政出動を模索する動き
 今回のG20では、世界経済の成長鈍化懸念に対する対応策が話し合われました。会議の場では、これまで各国が行ってきた量的緩和策をはじめとする金融政策の効果についても議論の対象となったようです。最終的には、あらゆる政策手段を用いるという文言が共同宣言に盛り込まれ、閉幕という形になりました。

 あらゆる政策手段というのは、具体的に言うと、金融政策、構造改革、財政出動の3つを指します。これまで米国やドイツといった主要国は、金融政策と構造改革を継続的に行ってきましたから、実質的に今回の共同声明は財政出動の強化を意味しています。

 こうした流れをうけて政府内部では大規模な財政出動を模索する動きが活発化しています。財務省としては歯止めをかけたいところでしょうが、今年の景気動向は非常に厳しく、財政出動やむなしという流れになっているように見えます。

 今の米国やドイツにとっては財政出動は効果があるかもしれません。米国は財政再建についてほぼ道筋を付けた状態にありますし、ドイツは財政再建をすでに達成済みです。ドイツは2015年度予算から事実上、国債の新規発行がゼロとなっており、いくらでも国債を発行できる環境にあります。
 また両国ともこれまで順調に経済成長を続けており、新興国経済の悪化を受けて、成長の鈍化が懸念されている状況です。このような環境であれば、国債を発行して景気を刺激することにはそれなりの意味があるでしょう。

 しかし日本が置かれている状況はまるで異なります。日本は過去20年間、ほとんど経済が成長していません。しかも、経済の基本的な構造が変わっていないため、従来型の財政出動では効果を発揮しない可能性が高いからです。

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財政政策が効きにくいという状況は何も変わっていない
 そもそも、日本で大規模な財政出動を行わなくなったのは、あまりにも増えすぎた政府債務が危険水域に達してきたことに加え、財政出動そのものの効果が薄れてきたからです。小泉内閣が構造改革を打ち出したのは、財政出動では日本経済を成長軌道に乗せることはできないというコンセンサスがあったからです。

 しかし構造改革には反対の声が多く政策は頓挫。代わりに飛び出してきたのが、量的緩和策という金融政策でした。金融政策の実施についても、経済の基本構造が変わらない限り効果は薄いという議論があり、それに対応するための施策がアベノミクス第3の矢でした。

 しかし第3の矢は、一部を除いてほとんど実施されておらず、日本経済の基本的な構造が変わらないまま、量的緩和策が実施されました。最近、量的緩和策の効果を疑問視する声が上がっていますが、金融政策そのものではなく、こうしたところに原因があるかもしれないわけです。

 このような状況を総合的に考えると、ここで大規模な財政出動に戻ったとしても、基本的な経済の仕組みは変わっていませんから、やはり効果は限定的でしょう。結果として政府債務の残高だけが増大するという結果になりかねません。

 政府債務の問題は、日本国債が紙切れになるという極論が見られる一方、債務残高の増大は大した問題ではないといった過剰に楽観的な意見が出てくるなど、議論が感情的になりすぎています。

 市場関係者の中で、日本国債が紙切れになる考えている人はほとんどいないでしょう。しかし、これ以上、財政出動を繰り返すと、将来、金利が上昇すると懸念している人は多いはずです。
 現在、日本の政府債務は1000兆円ほどありますが、理論的には金利が6%になった段階で、利払いだけで税収を超えてしまいます(デュレーションの問題がありますので、多少時間的な猶予はありますが)。こうなってしまうと、社会保障費や防衛費など、国の根幹に関わる予算を大幅にカットしなければ、財政を維持できなくなってしまうでしょう。これでは多くの人の生活が成り立たなくなってしまいます。

 何でも解決できる魔法の杖は存在しません。このタイミングで大規模な財政出動を実施することになれば、その副作用は大きなものとなるかもしれません。

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