経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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「保育園落ちた」問題で分かる、日本における危機感のなさ

 「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログの書き込みから、待機児童の問題が再びクローズアップされています。
 しかし、この問題に対する与党の反応を見ていると、特定のサービスを要求する一部の人だけの問題と認識しているように見受けられます。またネット上でも、保育園の増設を望むのはワガママに過ぎないといった意見も少なからず見られました。

 しかし、日本が置かれた状況を考えると事態は深刻であり、もはや保育園増設の是非を議論している段階ではありません。これは単なる社会問題ではなく、日本経済の根幹に関わるテーマとなっています。急いで対応しなければ、今後の経済成長に対する大きな障害となってしまうでしょう。

女性の労働力確保は日本に残された唯一の方策
 よく知られているように日本はこれから人口減少が急激に進んでいきます。経済成長は基本的に、人口、資本、イノベーションの3つに依存しますから、人口が減ることはそれだけで経済にとって大きなマイナスとなるのです。

 これまで出生率を上げようと様々な取り組みが行われてきましたが、目立った成果は得られないでしょう。なぜなら、政策によってある程度コントロールはできますが、出生率の低下は先進国共通の課題であり、日本だけが出生率を極端に高くして、人口を増やすことは現実的に不可能だからです。

 他の先進国の多くは、人口の減少を基本的に移民の増加でカバーしています。しかし、日本国民のコンセンサスは基本的に移民は受け入れないというものですから、この方法で人口を増やすことは今のところ不可能です。そうなってくると、経済成長を何とか維持するためには、生産性を高め、少ない人口でも同じレベルの生産を実現するための取り組みが必要となります。

 しかしこれについても、日本国民のコンセンサスは現状維持であると思われます。生産性を向上させるためには、労働市場の改革や新産業の育成が不可欠ですが、多くの国民が痛みを伴う改革を望んでいないからです。

 そうなってくると、最終的に経済成長を維持するためには、労働力人口を増やす以外に方法がなくなってしまいます。人口が減っても、働く人がそれほど減らなければ生産力は維持できる可能性があるからです。
 労働力人口を増やすために、リタイヤした老人に働いてもらうという選択肢もありますが、物理的に限界があります。そうなってくると、労働力人口を増やす唯一の方法は、働いていない女性に職場に復帰してもらうということになるわけです。

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保育施設増設は実現可能性が高い
 女性の職場進出は「1億総活躍社会」といったキャッチフレーズからも分かるように、男女格差や差別をなくすための社会的な取り組みと理解されがちです。しかし現実には、日本人が現在の生活水準を何とか維持するための、最後の手段といってもよいものなのです。

 国会でブログを取り上げた野党の戦術に対しては、政治利用だと批判する声も出ており、実際そうした面があることは否定できません。しかし現実には、そうした批判合戦をしている余裕などないくらい事態は切迫しています。その意味で、与党側にまったく危機意識がないように感じられてしまうのは筆者だけではないでしょう。

 女性が職場進出することの是非や、女性登用が逆差別を生むといった議論をしている余裕は、もはや今の日本にはありません。一刻も早く、働く意思のある人はすべて労働市場に投入できる環境を構築しなければ、経済の衰退はさらに進むことになります。

 保育施設を増やすためには、保育園の設置基準の緩和などの措置が必要となり、既存の保育施設運営者からの反発が予想されます。また保育士の確保のためには待遇改善が必須となっており、相応の財源が必要でしょう。

 しかし、年金財政の問題や介護の問題に比べれば実現性は圧倒的に高く、しかも、経済に対する即効性があります。本来であれば、経済政策として最優先で取り組むべきテーマなはずです。

 ブログ主が本当に女性なのかを議論している暇はありません。保育施設の問題は、経済問題そのものであるとの認識が必要です。

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