経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経済

中国発、世界同時株安をどう見るか?

 中国経済に対する懸念から、世界の株式市場が大きく値を下げています。こうした状況になると、不安心理がさらに市場を冷え込ませるという負のスパイラルが発生しがちです。
 市場は生き物ですから、この先、どのような動きをするのかは何とも言えませんが、少なくとも基本的な状況はしっかり整理しておいた方がよいでしょう。

中国経済は半年以上前からかなり減速していた
 今回の株価下落はいうまでもなく中国株ショックが引き金となっています。市場というのは、ある出来事をきっかけに、それまであまり意識されていなかったことが、一気に表面化するという傾向があり、このような時は、市場の動きと経済の動きに乖離が見られます。状況を判断するためには、市場の動きと経済の動きについて、分けて考える必要があります。

 中国の景気減速懸念による株価下落は、ここ1~2週間の話ですが、中国の失速自体は半年以上前から顕著になっていました。ここ1~2カ月でいきなり減速したわけではありません。

 中国はこれまで実質で10%以上の経済成長を続けてきましたが、2010年以降は7%台に低下しています。中国の名目GDPは1300兆円もありますから、成長が数%下がっただけでも、世界のあちこちに大きな影響を与えます。

 中国政府は今後も7%成長を継続するという目標を掲げていますが、足元の状況を見るとそれはかなり難しそうです。中国の経済統計はあまり信用できませんが、比較的信用度が高い輸出入や電力消費などを見ると、2014年後半からの減速がかなり顕著となっています。今年に入った段階で、すでに7%成長を大きく下回っていると考えた方が自然です。

 これが各国経済に対してじわじわと影響を及ぼしているわけですが、市場がそれを認識するのは、かなりの時間が経ってからです。そのタイミングがまさに今だったと考えるべきでしょう。

 中国経済の失速は、実は米国の株式市場ではかなり前から株価に反映されていました。米国内を主戦場とする企業の株価は堅調でしたが、海外市場の比率が高い企業の株価はここ半年、冴えない展開が続いています。その意味では、中国経済失速の影響はすでに明らかになっていたと解釈することも可能です。

 一方、米国経済の主役はあくまで内需ですから、これが崩れない限りは米国の成長は続きます。今のところ、米国の消費が中国経済の失速によって停滞するという兆候は出ていません。米国の利上げによって、そのシナリオが崩れないのかが、今後の最大の焦点といってよいでしょう。

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中国よりもむしろ米国経済や国内の消費動向に注目すべき
 日本も米国の内需に依存しているという点では同じです。これまでの日本の景気は、主に公共事業と米国向けの輸出に支えられてきました。中国向けの輸出も、その多くは、最終製品として米国に再輸出されますから、結局のところ米国の消費動向がカギを握るわけです。北米を主戦場とするトヨタの業績が絶好調なのは、こうした理由からです。

 もし米国の景気がこのまま失速しなければ、日本の輸出企業は引き続き好業績をキープできる可能性が高くなってきます。中国経済の問題ではありますが、最終的にわたしたちが注目すべきなのはむしろ米国経済なのです。米国の内需が崩れなければ、それほど悲観する必要はないという解釈が成立することになるでしょう。

 しかしながら、今の日本は必ずしもそうとは言い切れない状況にあります。その理由は為替です。

 日本の量的緩和策は、基本的に円安という形で為替に作用してきました。米国向けの輸出が好調で、しかも円安が続いているため、日本円ベースの企業業績は非常に好調でした。これが市場における業績拡大期待につながり、株価も上昇していたわけです。

 今回の同時株安で、株価は大きく下落しましたが、基本的な条件が変わらなければ、株価はやがて回復するというシナリオを描くことができるでしょう。しかし、株価の下落と同時に円高が進んでおり、これが円安による業績のゲタをはぎ取ってしまうリスクがあります。円安によるゲタがなくなってしまうと、日本株が必ずしも割安とは限らないという解釈が出てきても不思議ではありません。

 さらによくないことに、日本経済はこのところ消費が弱っています。4~6月期のGDPはマイナス成長に転落しました。マイナス成長となった最大の理由は輸出入なのですが、消費の数字もあまりよくありません。在庫が増えていることも気になります。

 このところの円安で企業は相次いで値上げを実施しており、これが家計を直撃しています。もし円高が続いても、企業が値段をすぐに戻すとは考えにくく、消費者からすれば高い買い物が続くことになります。これが全体に影響してくるようだと、株価上昇のシナリオも狂ってくるかもしれません。

 中国発のショックではありますが、中国そのものよりも、米国経済の動向や、国内の消費動向に対する注意が必要です。

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