経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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4~6月期GDPは予想通りマイナス成長。来期の数字でアベノミクスの成否が決まる?

 2015年4~6月期のGDP(国内総生産)速報値は、市場の予想通りマイナス成長でした。GDPの6割を占める個人諸費が振るわなかったことが最大の要因です。
 意外に思うかもしれませんが、これまでの景気回復は、主に公共事業主導によるものでした。しかし前期(2015年1~3月期)のGDPは、公共事業と個人消費が逆転し、民需主導による景気回復の兆しが見えていました。今期に引き続き、来期も個人消費が低迷するということになるとそのシナリオも少々怪しくなってきます。

円安による値上げで個人消費が息切れ?
 内閣府は2015年8月17日、2015年4~6月期のGDP(国内総生産)速報値を発表しました。物価の影響を除いた実質でマイナス0.4%(年率換算するとマイナス1.6%)となり、大幅なプラスだった前期(プラス1.1%)から一転、マイナス成長となっています。

 原因は主に2つあると考えられます。ひとつは、GDPの中でもっとも大きな割合を占める個人消費が低迷したことです。個人消費は前期比0.8%減と大きく落ち込んでおり、これが全体の足を引っ張りました。1~3月期までは3四半期連続でプラスでしたが、ここに来て、息切れとなってしまったようです。

 消費が低迷した最大の理由はやはり円安による物価上昇でしょう。これまで事業者は、円安で輸入物価が上昇しても、最終製品への価格転嫁をできるだけ回避してきました。販売数量が減少することを危惧したからです。
 しかし、一段と進んだ円安で耐えきれなくなり、4月以降、値上げに踏み切る事業者が増えています。物価上昇に賃金が追い付いていませんから、消費者心理が後退してしまった可能性が高いと考えられます。

 もうひとつの原因は輸出です。これまで日本は円安によって輸出金額が増加したことで、数量の伸び悩みをカバーしてきました。このため製造業を中心に企業の業績は好調です。しかし4~6月期は、中国景気の失速などもあり、輸出の伸び悩みが顕著となりました。
 輸出が低調になると、企業は追加の設備投資に躊躇するようになりますから、国内の景気にも影響を与えることになります。低調な輸出が原因かどうかはまだ分かりませんが、設備投資も0.1%減となっています。

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アベノミクスの基本シナリオが問われている
 アベノミクスにおける景気回復のうち、実はかなりの部分が公共事業に依存しています。
 もともとアベノミクスは、量的緩和策で市場にインフレ期待を持たせるにことに主眼が置かれていますが、これが現実に効果を発揮するまでは、公共事業で景気を下支えすることが前提です。その意味では、これまでの成長が公共事業主導であったことは不思議なことではありません。

 問題は、インフレ期待が実体経済に波及するのかという点なのですが、これまでは株価や不動産価格が上昇するだけで、目立った効果はありませんでした。
 しかし、1~3月期のGDPではその兆しが見え始めていました。政府は財政的な問題から公共事業を減らしているのですが、その分を消費の増加が補っていたからです。このパターンが続けば、個人消費主導で景気が持ち直すという当初のシナリオがようやく現実化することになります。

 このシナリオがホンモノなのか、4~6月期のGDPは非常に注目されていたのですが、結果は残念ながらマイナス成長でした。これまで四半期の実質GDPは、マイナス0.3%、プラス0.3%、プラス1.1%と推移してきました。前期の1.1%成長は相対的に大きなプラスでしたから、今期はその反動という側面もあるかもしれません。

 ただ、7~9月期以降も消費の低迷が続けば、アベノミクスの基本戦略に疑問符がつくことにもなりかねません。そうなってくると、日銀に対する追加緩和の圧力が高まってくることになります。
 市場にはあまり国債が残っていない状況ですから、もし日銀が追加緩和に踏み切るということなれば、ETF(上場投資信託)など、リスク資産の比率を高めてくる可能性が高いでしょう。

 日銀によるETF購入が市場で意識されれば、消費は低迷しているにもかかわらず、株価は上昇するというちぐはぐな状況となるかもしれません。
 
 いずれにせよ、インフレ期待を消費と設備投資拡大につなげるというアベノミクスの基本戦略は果たして有効なのか。その是非に関する議論が活発化することは間違いありません。その意味で、来期(7~9月期)のGDPは要注目と言えそうです。

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