加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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プログラミング教育が重要という声の落とし穴

 

 DeNA創業者の南場智子氏が、学校におけるプログラミング教育の必要性を説いています。このほかサイバーエージェント社長の藤田晋氏や楽天社長の三木谷浩史氏など、ネット系企業のトップでプログラミング教育の重要性を主張する人は少なくありません。

とにかく現場ではプログラマが足りない
 現実問題として、ネット系企業を中心に、プログラマーの数は絶対的に不足しています。
 新卒であっても、与えられたWeb上のビジネス・アイデアをすぐにコードに書いてサーバーに実装できる人材であれば、年収1000万円以上の働き口はいくらでもあります。
 とにかく人数が足りませんから、学校での教育を充実させ、供給量を増やす必要があるというのは現実的な課題といってよいでしょう。

 今、プログラミングができるスキルがあれば、まったく仕事には困りませんから、下手に英語を勉強するよりも手っ取り早く稼げるかもしれません。

 ただ、こういった話には落とし穴がある可能性もありますから、少々注意が必要です。

 日本にはプログラミングできる人材が少ないと書きましたが、広い意味でプログラムができる人材はかなり揃っています。日本に本格的にコンピュータが導入されてから、すでに40年近くになりますから、高齢者でもプログラマーだった人は多いのです。

 しかし、今、主流となっているWebサイトやスマホのアプリのコードをテキパキと書けるプログラマがいるのかというとそうはいきません。厳密には、今、必要とされているコードを書けるプログラマがいないのです。

 これは何を意味しているでしょうか?

 つまり、下手をするとプログラマという職業は使い捨てにされる可能性が高いということなのです。ITの世界は進歩が早く、必要とされる言語のスキルはどんどん変わっていきます。常にキャッチアップし続けるためには、相当の努力が要求されます。

 また日本の場合には、プログラマ出身の人が、企業のトップに立つケースはあまり多くありません。
 現にプログラミング教育が必要と主張している南場氏自身は、津田塾大学文学部卒業で、ハーバード大学MBA、外資系コンサルティング会社出身ですから、コテコテの文化系です。

 サイバーエージェントの藤田氏も、青山学院大学経営学部卒業で、人材派遣会社のトップ営業マンだった人ですし、三木谷氏は一橋大学、ハーバードMBAで銀行マンです。直接、本人から聞いたわけではないので分かりませんが、おそらく皆、自身でプログラムした経験はないでしょう。

 ちょっと皮肉な見方をすれば、こうしたネット企業の文化系トップの人たちが、使い捨て人材としてプログラマが欲しいと主張しているようにも解釈できます。

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人工知能の発達でプログラマが要らなくなる?
 プログラミングが重要という点に関しては、イノベーションという部分からも、逆風が吹いています。
 現在、人工知能がたいへんな勢いで進歩しています。あまり語られてはいませんが、人工知能が本格的に普及するようになると、もっとも必要とされなくなる職種のひとつがプログラマーである可能性が高いのです。

 これまで、ソフトウェア工学の世界では、システム要件を入力すると、自動的にコードを生成してくれるソフトの開発は夢でした。いろいろな企業がこれに挑戦しましたが、目立った成果は得られなかったのです。

 しかし、人工知能が発達すれば、いとも簡単にこのカベを乗り越えることが可能となります。どのようなシステムを作りたいか、自然言語で入力すれば、自動的にシステムが完成する、といったことも十分可能となるわけです。しかも、この話は数十年後という悠長なものではなく、下手をすれば数年後です。

 このような状況において、単純作業を行うだけのプログラマは今後それほど必要とされなくなる可能性が高いでしょう。
 今、必要とされていることは10年後にも同じである保障はありませんから、必要なスキルに関する話を聞くときには注意が必要です。

 ずいぶんとプログラミングを否定する文章を書いてきましたが、筆者自身は小学生の時から独学でプログラミングをしてきた人間ですので、ITに対する愛着は人一倍あります。
 コードが書けると、ソフトウェアという抽象化された世界に対する理解が早まりますから、取り組んで損はないと思います。
 また、いくら人工知能が発達しても、それをコントロールする人材は必要ですから、高度な能力を持ったプログラマはいつの時代も引っ張りだことなるはずです。

 ただ、労働者としての「手に職」という観点で考えると、これからの時代、プログラマは必ずしも有利な職業とはいえないでしょう。

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