経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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営業マンも残業代ゼロ?労働基準法改正案のポイント

 会社での働き方や残業代の支払いが大きく変わりそうです。労働基準法の改正案が3日、閣議決定されたのですが、これまで議論の中心だったホワイトカラー・エグゼンプションに加え、裁量労働制の拡大が盛り込まれたからです。
 ホワイトカラー・エグゼンプションは、年収1075万円以上の高度人材が対象ですが、裁量労働制が拡大されることになると、ごく普通のサラリーマンにも影響が及ぶ可能性が出てきます。

実は影響が大きい裁量労働制の範囲拡大
 これまで、労働基準法の改正に関しては、高度人材に限り、残業代を支払わないというホワイトカラー・エグゼンプション制度が議論の中心でした。

 これは、金融商品の開発や市場分析、研究開発など、成果と労働時間の関連性が低い職種について、労働基準法における労働時間や残業を適用しないという制度です。実質的に時間給の概念がなくなりますから、仕事の成果によってのみ給料が決まるということになります。

 この制度に対しては労働組合などが「残業代ゼロ」法案だとして激しく反発していましたが、現実問題としてこの制度が適用対象となる人は1075万円以上の高度人材ですから、範囲は限定的です。

 しかし、今回の法改正には、裁量労働制の拡大が盛り込まれています。

 裁量労働制は、時間給がベースになっていますが、実際の労働時間にかかわらず一定時間労働したとみなして賃金を支払うというものです。裁量労働制は、ベースが時間給になっていますから、理屈の上では、残業代が付くことになりますが、残業してもしなくても払われる金額は同じですから、実質的に残業の概念はなくなります。

 この制度がうまく機能すれば、社員は時間に縛られず、自由に働くことができるようになります。早く仕事が終われば、早く帰ることも可能となるでしょう。

 しかし、職務の範囲が不明瞭で、長時間残業が常態化している職場にこの制度が適用されてしまうと、場合によっては、一方的に残業代が減らされるということにもなりかねません。

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結局のところ、雇用の維持がポイント
 これまで裁量労働制の対象とすることができるのは、デザイナーや研究職、調査部門、企画部門などの社員でした。新しい法案では、これを提案定業を行う職種にも拡大するとしています。
 
 具体的には、資金調達の支援業務やITシステムの提案営業、保険の提案営業などが想定されています。一般的な営業職種などには適用しないとしていますが、このあたりの境目は曖昧ですし、年収の要件もありません。会社によっては広範囲にこの職種が適用されるケースも出てくるでしょう。

 これまで会社での働き方やその制度をめぐっていろいろな議論が行われてきましたが、あまり状況は改善していません。日本では長時間労働が常態化しており、むしろ正社員の残業時間は増える傾向にあります。

 いくら新しい制度を導入しても、仕事の範囲と責任が明確でなければ、うまく機能しない可能性が高いと思われます。早く片付いたので先に帰ろうとしても、次の仕事を振られてしまっては、結局同じことになってしまいます。

 結局のところ、終身雇用を保障し、同じメンバーで仕事を続けるということを前提にしてしまうと、企業は柔軟な人員配置や合理的な仕事の進め方はできなくなるわけです。

 一旦採用した人は解雇できませんから、業績が順調で忙しくても会社は安易に人を増やせません。その結果、需要増には残業で対処することになります。逆に、業績が悪く、需要が少ない時は、1人でできる仕事を複数の人でこなす状況が続きます。

 日本企業の長時間残業の常態化や、いわゆる働かないオジサン問題は、最終的には正社員の雇用維持と引き換えになっているのです。
 終身雇用が保障され、かつ給料が高く、そして残業がないという職場は、残念ながら現実には存在しません。雇用を最優先したいという場合には、それ以外の条件は我慢するしかないというのが現実のようです。

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