政府の財政再建目標に新しい指標を加えるという動きが出てきています。従来から掲げてきた基礎的財政収支(プライマリーバランス)に加えて、債務残高のGDP比についても併記する方向で調整が行われているようです。これが併記されることになると、日本の財政再建目標が甘くなる可能性があります。
安倍首相が債務GDP比の採用について言及
これまで日本政府は、基礎的財政収支について2つの公約を掲げてきました。ひとつは2015年度に基礎的財政収支の赤字を2010年度からGDP比で半減するというもの。もうひとつは、2020年度に収支を黒字化するというものです。
2015年度の赤字半減は目標を達成できましたが、2020年度の黒字化については今のところメドが立っていません。このままの状態が続いた場合、消費税をさらに増税しないと黒字化を達成できない可能性が高いわけです。
ただ政府による財政再建の見通しについては、増税ありきで議論が進んでいるという批判があります。順調な経済成長を実現できれば、黒字化は可能と指摘する識者もいます。
こうした流れを受けて、安倍首相は、昨年12月の経済財政諮問会議において、基礎的財政収支だけでなく、債務残高のGDP比についても着目すべきだと発言しました。
経済成長でGDPが増えれば、債務残高が変わらなくても、そのGDP比は減少します。つまり、経済成長による効果をもっと重視すべきだという意味と考えられます。
確かに、ドイツやカナダのように好調な経済を背景に財政再建を成し遂げた事例がありますので、経済成長を重視するというのは一つの考えといってよいでしょう。
狙いは公共事業の拡大?
しかし、こうした動きの背景には別な狙いがあるという見方もあります。与党の中には、公共事業をもっと増やしたいと考えているグループがあり、首相の発言は、こうした議員らの声を反映したものともいわれています。
確かに財政出動を増やせば、その分だけGDPは増えますが、国債を発行して公共事業ということになると、債務も増えてしまいます。債務の増加分以上に成長できないとかえって財政事情を悪化させてしまうリスクがあります。
ここで気になるのが、日銀の量的緩和策です。今のところ日銀は再度の追加緩和に消極的ですが、もし日銀が追加緩和に踏み切れば、円安が進み物価が上昇するかもしれません。
物価が上昇すると見かけ上のGDPは増えますから、債務のGDPも減少することになります。つまり、債務のGDP比を財政削減目標に据えると、過度にインフレを誘発しやすくなるわけです。
このように、新しい指標の導入には様々なリスクがあります。また、基礎的財政収支より、債務GDP比の方が、達成のハードルが低いですから、併記するということになると、基本的には収支目標は甘めになります。
今のところ、日本の財政悪化が懸念されて国債の価格が下落するような事態は考えられませんが、現在の水準の債務残高を続けていれば、いつかは国債の価格に跳ね返ってきます。
より甘い基準の財政再建目標の導入は、あまりいい結果をもたらさないでしょう。