経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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海外移住をめぐる環境の変化は何を意味しているか?

 最近、再び海外移住に関する話題を耳にする機会が多くなってきました。つい最近、著名な経済紙が特集を組んでいましたし、個人的にも知り合いが何人かアジアに移住しています。
 海外移住に関する話題は昔から一定の頻度で登場してくるのですが、その切り口は、日本の経済的な状況に合わせて常に変化しているようです。

今回の移住ブームは前回とは違う
 十数年前に前にも、ちょっとした海外移住ブームが発生したことがありました。当時の海外移住は、強い円を活用することで、年金受給者でもリッチな生活を送れるというたいへんポジティブなものでした。

 当時、マレーシアやタイといった東南アジアの新興国は、まだまだ物価が安く、円高だったこともあり、日本人の購買力は相当なものでした。日本でわずかな年金しかもらえない人でも、こうした外国に行けば、高級コンドミニアムに住めるということで、実際に移住を決行した人も少なからずいたようです。

 当時は、政府もこうした移住を推奨していました。経済産業省の幹部が、自分も役所を辞めたら物価の安いスペインに行くとメディアで公言し、多くの退職者に移住を推奨していたのです。ところが、当の本人は、いざ退官となると前言を撤回。スペイン行きをやめてしまうという「事件」もありました。

 軽々しくこうした発言をする公務員というのは非常に困ったものなのですが、ウラを返せば、それだけ日本人が豊かだった証拠でもあります。

 それからしばらく時間が経過し、最近、再び海外移住が静かなブームになっています。しかし、今回の海外移住ブームは前回とはだいぶ様子が違うようです。最近の海外移住ブームは、現役世代の人が、海外で仕事を見つけ、海外で稼ぐということを前提にしたものが多くなっています。

 一部では富裕層が相続税のために資産を移すという話も取り上げられていますが、富裕層が少ない日本の場合、こうしたことができる人はごくわずかですから、かなりの例外と考えてよいでしょう。今、海外移住について真剣に考えている人の多くは、現地で仕事を見つけようというパターンです。

 この現象はストレートに言ってしまえば、日本の国力低下と大きく関係しています。

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グローバル化時代においてはどこにいてもあまり状況は変わらない
 日本経済はここ20年ずっと横ばいですが、他の先進国は経済規模を1.5倍から2倍に拡大させています。新興国ともなると数倍に達します。相対的に日本はかなり貧しくなってしまったわけです。

 物価が安い東南アジアというのは、すでに過去の話です。現地の低所得者と同じ生活でよければ、日本よりも割安ですが、現地の中間層以上の暮らしをしようと思った場合には、日本と同レベル、下手をすると日本よりもコストがかかるというのが現実です。

 日本は今後、円安になってくる可能性が高いでしょうから、日本とこうしたアジア各国(厳密にはアジア各国の中間層以上の生活エリア)の物価は近い将来逆転することになります。

 つまり現地にいっても、かなりの稼ぐ力がなければ、豊かな生活は送れないわけです。またビザの取得も国によって状況は様々であり、そう簡単にはビザを取れない国も少なくありません。
 それにもかかわらず、現地で仕事を見つけたいという考えている人が増えているというのは、やはり日本市場の将来性について、楽観的に考えられないことが原因でしょう。

 どのようなライフスタイルを選択するのは個人の自由ですから、海外で頑張ろうと思う人は積極的に海外を目指せばよいですし、国内にいた方がいいという思う人は、無理に海外のことなど考える必要はないと思います。

 どちらの選択をするにせよ、理解しておく必要があるのは、日本が鎖国でもしない限り、どの場所にいても、多かれ少なかれ、グローバル化の影響を受けるということです。

 仮に日本国内だけで仕事を完結していても、モノやサービスの付加価値は、グローバルな水準に収れんしていきます。特別な利権に守られた業界にいる人以外は、そこから逃れることはできないでしょう。

 一方、海外に活路を見出した人も、そこに行くことで特段有利になるわけではありません。伸びている市場に行けば、より多くの機会が得られるだけです。
 グローバルな基準で十分な価値を発揮できない人は、どの市場に行っても同じ結果しか得られません。結局のところ、どの市場で働くのかという選択は、機会をどの程度求めるのかという選択でしかないわけです。

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