NHKの9時のニュースで、終戦直後に実施された預金封鎖と財産税が取り上げられ、ちょっとした話題になっているようです。預金封鎖というのはあまり聞き慣れない言葉ですが、これは一体どんな施策だったのでしょうか。
太平洋戦争の膨大な戦費は、最終的に国民の預金を強制徴収してカバーされた
日本は太平洋戦争に敗北してしまいましたが、この戦争は日本の体力をはるかに超える無理な戦争でした。太平洋戦争には、当時の金額で延べ1900億円もの費用が投入されたのですが、この金額は国家予算の何と70年分という途方もないものです。
戦費の多くは、政府が国債を発行し、日銀がそれを直接引き受けることで調達されました。現在、日銀が行っている量的緩和策は、政府が発行した国債を直接買っているわけでありませんが(一部を除く)、今の量的緩和策に近いことを行っていたわけです。
日本の敗戦が確定すると、国内では一気にインフレが加速しました。日本政府は、インフレを沈静化するとともに、戦争のために積み上げられた膨大な借金を何とかする必要に迫られ、とうとう非常措置を発動することになります。それが預金封鎖と財産税です。
預金封鎖は1946年2月に突然実施されました。その日を境に、必要最小限の生活資金以外は、銀行の預金が引き出せなくなったのです。引き続いて財産調査令が出され、封鎖された銀行預金に関して誰がいくら保有しているのかについて申告が義務付けられました。
その後、財産税が公布されることになり、保有している封鎖預金のうち一定割合が強制的に税金として徴収されました。これにはかなりの累進がかけられており、富裕層については90%もの税率となっています。ただでさえインフレで現金の価値が目減りしていたところに、90%の財産税が課されてしまいましたから、当時の富裕層の多くは、ほぼすべての財産を失ってしまいました。
つまり、国民が持つお金を強制的に徴収することで、戦争に使った膨大な費用の帳尻を合わせたというわけです。これだけの荒療治をやったことで、膨大な戦時債務は解消され、インフレもその後、何とか収束に向かうことになりました。
本当にこのような措置があり得るのか?
日本政府は、2020年間でに基礎的財政収支を黒字化するという目標を立てています。しかし、今の状態では、消費税を10%に増税したとしても、その目標を達成するのは困難といわれています。
この基礎的財政収支目標が妥当なのかどうかについては、様々な見解があり、日本の財政はまだ大丈夫だと主張する人もいます。
ただ、国際比較という意味でも、また歴史的に見ても、政府債務のGDPに対する比率は、かなり高いというのが現状ですから、まったく問題ないという解釈は成立しにくいでしょう。仮に財政が破たんする状況にまでにはならないにしても、財政悪化が懸念され、金利が急騰しただけでも、日本にとっては大打撃です。
番組のメッセージは、財政規律をしっかりしておかないと、最終的にはこのような非常手段で帳尻を合わせる結果になりかねないということを意図していると思われます。
ちなみに、これらの非常措置は、日本国憲法が公布される前、明治憲法下で実施されたものになります。今の憲法の下で財産税を課すという場合には、私有財産の権利に抵触する可能性も出てきますから、容易には導入できないでしょう。
もっとも預金封鎖自体は政令で実施されていますので、現憲法下でも、理論的には国会決議なしで実施することができます。政府が本当にヤル気になれば、こうしたことを実施するのはそれほど難しいことではありません。最近の例では、財政危機を起こしたキプロスが似たような施策を実施しています。
財政再建をするためには、歳出を減らす、増税する、経済成長させる、インフレで実質債務を減らす、という4つの方法しかありません。
増税論者の人は増税しかないという言い方をしますし、経済成長論者の人は、経済成長で税収が増えれば財政再建は達成できると主張します。
しかし現実には、これらの方法をすべて組み合わせ、あらゆる方面で努力を続けていく必要があります。どれかひとつの方法で、魔法のように財政再建を達成することは難しいと考えた方がよいでしょう。