加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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量的緩和路線の堅持がはっきりした日銀審議委員人事

 

 政府は2015年2月5日、退任する日銀の宮尾龍蔵審議委員の後任に、積極的な緩和論者である、原田泰早大教授を起用する人事案を提示しました。市場では、この人事について、量的緩和を推進する安倍政権の強い意志を示したものと解釈されています。当面は現状の金融政策が堅持されることになるでしょう。

前回の政策委員会はギリギリの決定だった
 日銀の金融政策は、日銀総裁がほとんど決定しているというイメージがありますが、決してそうではありません。もちろん日銀総裁は全体的に強いリーダーシップを発揮していますが、金融政策の決定そのものは合議制です。
 
 日銀には最高意思決定機関である政策委員会というものが設置されており、重要な政策はすべて政策委員会の決議が必要となります。政策委員会は、総裁と2名の副総裁、6名の審議委員の合計9名で構成されます。

 昨年10月、日銀は追加の量的緩和策を決定しましたが、その時に開催された政策委員会では、賛成5名、反対4名というギリギリの決定でした。つまり日銀内部でかなりの意見対立があったということになります。

 今回退任する宮尾氏は、追加緩和に賛成票を投じていました。もし宮尾氏の後任となる人物が、量的緩和に慎重だった場合、今後の追加緩和策が頓挫するリスクが出てくることになります。

 こうした状況を避けるため、後任の審議委員には、黒田総裁と考えが近い人物が推薦されたものと考えられます。
 従来の審議委員人事は、日銀の事務方や財務省などが調整することが多かったのですが、今回の人事はすべて官邸主導で行われました。それだけ安倍政権側の日銀に対する期待感が大きいということでしょう。

 今回、審議委員に就任する予定の原田氏は、非常に見識が高く、人物的にはまったく問題ないといわれています。しかし、先にも述べたように、人事の最優先事項は、黒田総裁に反対票を投じない人という部分ですから、量的緩和に慎重な人からは、この人事を懸念する声も上がっているようです。

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市場へのメッセージという意味では成功
 もっとも、残りの審議委員の中で、緩和策に慎重であることを積極的に表明しているのは、木内登英氏(野村證券出身)くらいとなっており、原田氏が就任するかどうかに関わらず、政策委員会はすでに緩和策一色といわれています。

 ただ、積極的な緩和論者として知られる原田氏を起用することで、マーケットにはより明確なシグナルを発することになります。量的緩和策が成功だったのかどうかは、今のところ何とも言えませんが、量的緩和策を是とするならば、今回の人事は非常に効果的だったと考えるべきでしょう。

 というのも、量的緩和策が、そもそもマーケットの期待に訴えかける政策だからです。

 量的緩和策は、市場にインフレ期待を持たせることによって、実質金利を低下させ、融資の増加や、資産効果による消費を促す政策です。重要なことは市場のインフレ期待を維持することなわけです。
 
 その点で、今、日銀は少し難しい状況にあります。

 岩田副総裁は4日、記者会見において、2年で2%という物価目標の達成は困難であるとの認識を示し、日銀の金融政策が予定通りには進んでいないことを認めました。
 市場では、物価がなかなか上昇しないことから、量的緩和策の弊害の方に目が行ってしまい、突如、日銀が政策を変更するのではないかと危惧する声が一部から上がっていました。

 そのような懸念材料があると、スムーズにインフレ期待が醸成されず、当初の目的を達成できないことになります。今回の人事はこうした懸念を払拭することが狙いというわけです。

 官邸と日銀のスタンスがはっきりしたことはプラスに評価すべきですが、一方、日銀にとっては、今後の選択肢を狭めたとも解釈できます。このまま物価が順調に上昇しない場合、その成果が得られるまで、追加緩和を繰り返すことを市場から期待されてしまうからです。

 量的緩和策に関する議論は、その成否をめぐり、いよいよ佳境に差し掛かったといってよいでしょう。

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