ピケティの資産格差に関する話題が、まだまだ盛り上がっているようです。本コラムでもピケティを1度取り上げましたが、今回はちょっと見方を変えてピケティの格差理論を考えて見たいと思います。
資産を保有しているのは誰か?
ピケティによると、歴史的にいつの時代も、資産の収益率(r)が所得の伸び(g)を上回っており、これによって富を持つ人とそうでない人の格差が広がると主張しています。つまり恒常的にr>gが成立するので、格差が拡大するという仕組みです。
ピケティのこのr>gは非常に有名になりました。
確かにデータを見ると(r)の値は(g)よりも大きいのですが、素朴な疑問が湧いてきます。(r)の恩恵を受けている資産家とは具体的にどのような人なのでしょうか?
ピケティは、資産の収益率を計算するにあたって、資産はすべての資産から負債を引いた純資産であると定義しています。日本にはこの純資産が約3000兆円ほどあるのですが、この運用利回りの恩恵を誰が受けているのかという問題です。
資産と負債の関係は複雑ですので、負債を差し引かない総資産を使ってその中身を見てみましょう。
日本経済が持つ総資産のうち、3割は土地や設備といった実物資産です。残り7割は金融資産ということになります。実物資産のうち、約半分は住宅です。住宅を所有している人は多いですから、これは、家賃を払わなくてもよいという形で、一般国民に(r)の恩恵が及んでいます。
また金融資産のうち、半分程度が、預金、国債、株式などで占められています。国債や株式の多くは、機関投資家が保有しており、機関投資家の代表的な存在は、公的年金、民間の保険会社ということになります。つまり、金融資産の多くは、年金や保険金という形で一般国民に返ってきていることになります。
全体として考えれば資産収益の多くは庶民に返ってくる
つまりマクロ的にみれば、資産格差の恩恵をもっとも受けているのは、資産を間接的にたくさん保有している一般国民ということになります。
もちろん、何億、何十億という資産を持っている人は一定数存在しており、この人たちが資産から得られる収益は、庶民の目から見れば莫大なものでしょう。
億単位の資産を持っている富裕層は、労働することなく生活することが可能です。こうした人達の富が、労働者よりも有利な条件で増えているという点においては、r>gの格差が生じているという解釈は成立します。
しかしマクロ的に見た場合、上記のように、(r)からの恩恵を受けている人の多くが、ごく普通の庶民です。単純に資産収益が大きいことはよくない、という図式にはならないことがお分かりいただけると思います。
この事実は、今後の資産配分をどうすればよいのかのヒントにもなります。
米国は確かに日本と同レベルの貧困率があり、さらに、日本にはいない超富裕層が存在していますから、日本と比べて格差が激しい社会です。しかし、同じ中間層の生活を比較すると、現実問題として、米国人の方が圧倒的に豊かです。この違いはどこから来るのでしょうか?
経済構造の比較は単純ではなく、そう簡単に決めつけることはできませんが、ひとつ考えられるのは、米国人の一般家庭における株式保有率の高さです。
米国ではごく普通の一般家庭でも、民間の年金という形を通じて、あるいは投資信託という形を通じて、株式投資を積極的に行っています。このため、株価が上昇すると、7時のニュースでは「皆さんの家計に朗報です!」というキャスターの第一声が聞こえてくることになります。
アベノミクス開始後、家計の金融資産のうち株式は2倍近くの増加となりましたが、日本では株式の所有者のほとんどが富裕層であり、一般国民はアベノミクスの恩恵を肌で感じることができません。
日本人がもう少しリスクに対して積極的になり、中間層が何らかの形で株式投資をするようになれば、アベノミクスの恩恵をもっと多くの人が受けることができるようになるはずです。ピケティは間接的ですが、こうしたことをわたしたちに教えてくれています。