経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

1%の富裕層が世界の富の50%を占める現状から日本を考える

 貧困の撲滅活動などを行っている国際NGO「オックスファム」は2015年1月19日、格差に関する最新報告書を発表し、上位1%の富裕層が、全世界の富の半分を独占しているという実態を明らかにしました。

日本は一般に思われているほど平等な国ではない
 この報告書は、同団体が金融機関やフォーブスなどの各種調査を元に世界の富の偏在について分析したものです。報告書によると、1日1.25ドル未満で生活する人が、全世界で10億以上に達する一方で、もっとも豊かな上位1%の層が、全世界の富の48%を占めているそうです。

 この数字は2009年の44%から上昇をしており、このままのペースが続けば、来年には1%の富裕層が全世界の富の過半数を所有することになると指摘しています。

 日本はこれまで、貧富の差が少なく平等な国だと思われてきました。激しい格差は、どこか別の世界の話というイメージを持っている人も多いと思います。しかし実際はそうでもなく、日本の格差が世界に比べて特に小さいというわけではありません。

 この調査では、上位1%が全体の富の50%を占めているわけですが、これは途上国に住む、かなり貧しい人達が統計対象に入るからです。米国では、全体の富の過半数を占めているのは上位3%程度となります。では日本はどうなのかというと、富の過半数を占めるのはだいたい上位8%くらいの人達です。

 確かに全世界や米国と比べると、超富裕層の割合は低いのですが、日本が特別平等なのかというとそうではないことが分かると思います。

 このところ日本でも格差問題が大きくクローズアップされていますが、日本の格差問題と米国の格差問題は質的に異なっています。米国では超富裕層が増え、高額な資産を持つ人とそうでない人の格差が拡大しています。
 一方、米国の貧困率は17%程度で昔から変わりません。つまり米国は上に向かって格差が拡大しているのです。

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下への格差拡大を是正するのは容易ではない
 ところが日本の場合は状況が反対です。日本では累進課税が徹底していることや不景気だったせいもあり、高額所得者が著しく増えているわけではありません。
 しかし日本の貧困率は悪化の一途を辿っており、今や、米国と並んで先進国ではトップクラスです。つまり日本は下に向かって格差が拡大しているのです。

 米国のオバマ大統領は1月20日、一般教書演説の中で富裕層への課税を強化する方針を明らかにしました。

 米国はブッシュ政権以来、富裕層に対する減税を繰り返してきました。米国の格差は富裕層に対する優遇策で生じた面が大きいですから、税制によってこれをもとに戻すという政策には一定の合理性があります。

 しかし、日本の場合、格差問題の解決はそう容易ではありません。日本は上への格差ではなく、下への格差だからです。上への格差拡大は課税を強化すれば解決できますが、下への格差拡大は、課税の問題で解決することは困難でしょう。
 最終的には、低所得者層にもお金が回るように、経済構造を変革する必要がありますが、これはなかなか一筋縄ではいきません。
 
 さらにやっかいな問題は、アベノミクスが成功した場合、ここに米国型の格差拡大が加わってくるという点です。
 今のところアベノミクスは100%成功したとは言い難い状況ですから、株価の上昇も限定的です。しかし、アベノミクスが最終的に成功すれば、日本における株や不動産の価格はさらに上昇することになります。

 日本では株式投資を行う層が富裕層に極端に偏っているという特徴があり、もし株価が大幅に上昇した場合、富裕層と中間層の格差は急激に拡大することになります。

 こうした状況を防ぐには、硬直化した労働市場を改革し、低所得者層にも健全な雇用機会を提供するとともに、資産価格上昇の恩恵が中間層にも行き渡るような制度設計を進める必要があります。
 個人レベルの話としても、資産価格の上昇が、自分自身の資産増加につながるよう、投資についてより積極的に行動することが重要となるでしょう。

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