厚生労働省が、年金の世代間格差について説明するために作成した漫画があちこちから批判を浴びているようです。この漫画をめぐる一連の議論は、日本の年金制度の本質をよくあらわしています。一度、読んでみることをお勧めします。
日本の年金制度はそもそも個人完結型になっていない
厚労省はWebサイトに「世代間格差の正体~若者って本当に損なの?」という漫画を掲載しています。
これは、若者が損をしているという主張は必ずしも正しいものではないということを漫画で説明したものなのですが、これに対してツイッターなどで批判が殺到しています。
年金は世代間扶養が原則であり、子供をたくさんつくらないと安心した年金制度を構築できないという厚労省側の主張はまったく賛同できませんし、これを批判する人たちの意見はもっともだと思います。
しかし、あまり知られていないのですが、日本の年金制度というものは、そもそも個人が現役時代に積み立てたお金を年金という形で受給するという個人完結型の制度にはなっていません。
日本の年金制度は、基本的に老後は家族が面倒をみるものという「家族制度」がベースになっており、これを制度化したものにすぎないのです。これは厚労省もはっきりと明言しています。
この制度の下では、子供が親を支えるのが当たり前ですから、子供が多かろうが少なかろうが、扶養するのが当然であり、子供が減っている現状では、当然に負担額が大きくなるという結果になります。
厚労省側は、乱暴に言ってしまえば、制度がそうなっているのだから、若者が不公平という議論はそもそもおかしいと主張しているわけです(もう少しオブラートに包んでいますが)。
制度そのものを変えないと問題は解決しない
一方、国民の多くは、日本の年金制度がそういうものだとは思っていない可能性があります。自分が現役時代に納めた保険料で、老後に年金を受け取れるものだと考えており、それが実現されていないので、今の制度は不公平だと考えているフシがあります。
つまりこの議論は最初からズレているのです。
というよりも厚労省側はこのスレ違いが発生していることを理解しているものの、あえてこれを放置しているのかもしれません。
世代間格差を是正するような年金の受給は現在の制度では不可能であり、それを実現するためには、抜本的に制度を改正する以外に方法はありません。
抜本的な制度改正は政治的にも大変な決断となりますから、そうした事態になることを厚労省は望んでいないのだと考えられます。
筆者は、個人的には、日本の年金制度について、前近代的な要素を残した今の制度を段階的に廃止し、個人で完結する近代国家型のものに改正すべきだと思っています。その点では、今回の漫画を批判している人と同意見ですが、現在の制度では、それを実現するのは不可能であるとも考えています。
現在、政府では年金を含めた総合的な社会保障制度改革を進めていますが、年金については、現在の制度を堅持することがはっきりと示されています。
つまり、年金の世代間格差を解消できるかどうかは、制度の運用のあり方を議論するのではなく、現在の制度そのものの是非について議論できるのかにかかっているわけです。
つまり、これは100%政治の問題であり、本当に年金の世代間格差を解消しようと思った場合には、改革を求める側も、相当の覚悟が必要となるわけです。