加谷珪一の分かりやすい話

経済評論家 加谷珪一が分かりやすく「お金」、「経済」、「ビジネス」などについて解説します

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賃金は物価に追い付くのか?

 

 昨年の春闘では、民間主要企業において2.19%の賃上げとなりました。2%を超える賃上げは実に13年ぶりのことなのですが、現実の生活感覚としては、あまり豊かになっていないという人がほとんどでしょう。
 円安で輸入物価が上昇していること、中小企業や自営業者などには賃上げの恩恵がなかったこと、消費税が増税されてしまったことなどが主な原因です。名目上の賃金が上がっても、実質的な家計の購買力は低下しているわけです。

日本企業の業績は好調なのに・・・
 安倍政権はもちろんこの状況をよく理解しています。今年の春闘では、さらに賃上げが実現するよう、昨年に引き続いて、経済界に異例の賃上げ要請をしています。経済界側は賃上げには応じたものの、反応はいまひとつです。

 日本は米国と異なり、株主利益を最大化するために、経営者が高い報酬と引き換えに、大胆なリストラをするような社会環境ではありません。経営者もほとんどが従業員からの昇格であり、諸外国と比較した場合、日本企業の多くは従業員寄りといってよいでしょう。

 しかも、日本企業の業績は一部の業種を除いて比較的堅調です。企業の内部留保は300兆円を超えており、過去最大規模となっていますが、多くの企業が賃上げに対してあまり積極的ではありません。これはどうしてなのでしょうか?

 最大の理由は、日本企業の稼ぎ方が変わってきていることにあります。

 従来の日本企業は、国内で製品を作り海外に輸出するというモデルでした。しかし、グローバル化の時代には、低コストを武器にした新興国とは勝負になりません。結果として、より付加価値の高い方向にビジネスモデルを転換するか、海外に工場を移転するのかの二者択一を迫られたわけです。

 本来であれば、日本企業は、米アップル、米GE、独シーメンスのような、高付加価値製造業に転換すべきでしたが、多くの日本企業はこの道を選択せず、工場を海外にシフトさせ、現地生産を行うようになりました。

 これらの企業は円安になると、日本円ベースの売上げが増加しますから、輸出はしていなくても、増収増益となります。日本企業の業績が伸びているのは、円安によるところが大きいわけです。

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企業の利益を別な形で還元する仕組みが必要
 しかし、業績が伸びたといっても、あくまでそれは、海外で生産したものが海外で売れたからです。経営者としては、企業が儲かって利益が出た場合、利益に貢献していない国内の従業員よりも、利益が出ている地域の従業員の手当を増やそうとします。

 日本国内にいる社員としては面白くありませんが、これは立場を逆にすると、そうでもないことが分かると思います。あなたが日本にある外資系企業の社員だと仮定しましょう。一生懸命頑張って利益を上げても、米国本社の社員ばかりが昇給になると知ったらどうでしょうか?その会社で頑張って働こうという意欲はなくなってしまうはずです。

 海外が利益の源泉となっている場合、国内への還元はどうしても最小限になってしまうのです。

 米国はとっくの昔に、空洞化が進んでいますから、同じような状況を経験しています。しかし米国の場合、別な形で社員に利益を還元する仕組みがあります。それは株式投資です。

 会社の持ち株会やストックオプション、企業年金などを通じて、株価上昇の利益が社員に還元されるようになっているのです。このため、株価が上がると多くの国民の懐が豊かになり、消費が活発になります。

 しかし、これは株式投資というリスクを皆で分かち合った結果です。日本人の多くは株式投資に消極的ですから、こうした仕組みはなかなか構築できません。「アベノミクスで得したのは誰? 」の記事でも書きましたが、日本の場合、アベノミクスで潤ったのは、積極的に株式投資を行っている富裕層だけというのが現状です。

 世界経済は日本国内の事情とは関係なしに進んでいきますから、工場の海外移転を嘆いても始まりません。日本の産業構造が変わったことを前提に、日本企業が得た利益を、別な形で多くの国民に分配する仕組みをできるだけ早く構築する必要があります。

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