政府は2014年10月10日、女性登用に関する会合を開き「すべての女性が輝く政策パッケージ」を決定しました。かなりキラキラした名称なのですが、この施策によって女性登用は進むのでしょうか?
女性登用の数値目標設定が議論の焦点
安倍政権では、成長戦略の柱の一つとして女性の活用を掲げており、2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%まで高めたいとしています。今回決定された政策パッケージはこれを実現するための具体策ということなります。
女性の登用に関する行動計画の策定を国や企業に義務づける「女性活躍推進法案(仮)」を今の国会に提出するほか、女性の再就職支援、非正規社員から正社員への転換促進などの支援策などが盛り込まれています。
法案では、女性登用の数値目標設定を義務付けるのかが焦点となっていました。しかし数値目標の義務付けには財界が難色を示しており、具体策を検討していた厚生労働省の審議会では、企業の自主的な取り組みにとどめるとした報告書を提出していました。
しかし政府内部では、数値目標を設定しないと女性登用は進まないとの声が大きく、最終的に審議会で議論される法案要綱には数値目標に関する規定が盛り込まれることになりました。
数値目標の設定が義務付けられれば、表面上の女性登用は確実に進むと考えられます。目標とはいえ、法律で明記された以上、大手企業を中心にそれに従うところが大半を占める可能性が高いからです。
ただ、財界が懸念しているように、すぐに幹部職員として働くことができる女性の絶対数が少ないという問題があるほか、一部からは、男性に対する逆差別だという意見も出ているようです。
女性登用トップは強制策のない米国という皮肉
女性の登用をめぐっては、これまで欧米各国が、様々な議論を行ってきました。欧州の国の中には、一定数の女性登用を義務付けるクオータ制を導入しているところもあります。
しかし、注目すべきなのは、企業の管理職における女性登用の割合がもっとも高いのは、こうした規制がいっさいない米国であるという点です。
労働政策研究・研修機構の調査によると管理職に占める女性の割合が世界で最も高いのは米国で43.1%となっています。2位はクオータ制のあるフランスとなっているのですが、フランスは欧州の中でもどちらかというと男女差別が激しい国として知られています。
世界経済フォーラムが発表する各国の男女格差を示すジェンダー・ギャップ指数によると、フランスの順位は135カ国中57位とかなり低迷しています。フランスは国営企業が多く、企業幹部には公務員からの天下りが存在しています。こうしたことから、フランスでは見かけ上の女性登用は進んでいる可能性が高いわけですが、実質的には米国の方が圧倒的に女性登用は進んでいると考えた方がよいでしょう。
女性登用が進んだ米国も、70年代にはアファーマティブ・アクションに代表されるような、半強制的な是正策が盛んに議論されていました。
しかし、実際に女性の登用が進んだのは、レーガン政権によって徹底的な市場原理主義が導入された80年代以降のことです。つまり大胆な規制緩和などいわゆる競争政策を導入すると勝手に女性登用は進むわけです。
考えて見れば当たり前のことですが、企業は激しい競争にさらされると、人材の登用で感情的な議論をする余地はなくなってきます。男女や国籍に関係なく優秀な人物を採用しないと、競争に負けてしまうからです。
フランスはどちらかというこうした競争主義を否定する国に分類されますが、その結果、クオータ制については、今でもその是非に関する議論が続いている状態です。
もし日本が数値目標を導入すれば、おそらくフランスに近い状態になる可能性が高いでしょう。とりあえず、大企業を中心に、見かけ上の女性幹部の割合は上昇しますが、社会全体として女性参加が進むのかどうかは何ともいえません。