安倍政権がとうとう年功序列の賃金体系に対してメスを入れる考えを明らかにしました。長年維持されてきた日本の賃金体系が変わる可能性が出てきたわけですが、課題は山積というのが現実と考えられます。
政労使会議で年功序列見直しに首相が言及
安倍政権では、政府、経済団体、労働団体の代表らが雇用や賃金について話し合う「政労使会議」というものを首相官邸で開いています。本来、従業員の待遇といった問題は、労使間で交渉すべきものであり、政府が間に入るようなものではありません(少なくとも日本は社会主義国家ではないので)。
しかし、現実問題として、日本の財界や労働組合はあまり当事者能力を持っておらず、政府が介入しないと、意思決定ができない状態となっています。実際、昨年の政労使会議では、賃上げと雇用拡大に関する合意文書が作成され、その結果として、今年の春闘では久々に賃上げが実施されることになりました。
つまり、今の日本では、政労使会議が実質的な労使交渉の場となっているわけです。
安倍首相の年功序列見直しの発言はこの政労使会議の場で出てきたものです。今年の政労使会議では、主に企業の生産性の向上と年功序列型賃金体系の見直しについて議論が行われる予定となっています。
もし、昨年度と同様に、3者の合意文書が締結されれば、年功序列型賃金体系の見直しがスタートする可能性が高くなってくるわけです。
安倍政権の単なる「やるやるポーズ」なのか、真剣な取り組みなのかについては、今のところはよく分かりません。しかし生産性の向上と年功序列の見直しを実施するとなると、日本の労働市場には相当大きなインパクトが生じる可能性が高いでしょう。その理由は、生産性の向上は、ある人にとっては賃下げにつながるからです。
生産性の向上には痛みを伴う
安倍政権は、個人消費を活発にさせるため賃金の上昇が必要というスタンスです。これはまさにその通りで、賃金を上げることができれば、個人消費は活発になる可能性が高いといえるでしょう。
しかし企業の中で、従業員に支払う賃金の原資には限度があります。それ以上、従業員に賃金を支払う場合には、生産性を向上させなければなりません。
生産性を上げるためには、ビジネスモデルを変革して企業の付加価値を上げるか、労働力を減らすかの二者択一になります。
ビジネスモデルを変えてより付加価値の高い事業に転換するためには、社員の多くを入れ替える必要が出てきます。労働力を減らす選択をすれば、こうした改革は実行する必要がありませんが、社員数を減らすか、仕事の時間を減らす必要が出てきます。
日本の場合、構造改革的な解決手法は事実上、民意で拒否されていますから、このやり方は使えません。ということになると、企業の形態は変えずに、利益率を向上させ、企業の付加価値を向上させるというやり方を選択する必要が出てきます。
そうなってくると、まずターゲットになるのが、高い給与をもらっている中高年社員の処遇というわけです。高給の中高年社員の待遇を減らし、一部は若手の優秀な社員に振り向け、残りは企業の利益にすれば、一応、企業の生産性向上を実現することができます。
その上で、余剰となった中高年社員を、新しい事業分野に投入していけば、最終的には全体的な賃金の原資も増えていくという仕組みです。
しかし、現実はそう簡単にはいかないでしょう。給料が減らされ、その上、最終的には配置転換させられる中高年社員の反発が大きいことが予想されるからです。この点について、安倍氏がどこまで本気なのかは、今のところ不明です。