菅新政権が目玉政策としてデジタル庁の創設を打ち出しています。今回のコロナ危機では、日本政府のデジタル対応の遅れが露呈する結果となりましたが、デジタル庁を作るメリットはどこにあるのでしょうか。
行政組織は基本的に縦割り
日本の官庁は基本的に縦割りになっており、IT関連の施策も各省が独自に行っている状況です。民間も含めたIT振興策は経済産業省の管轄ですが、通信行政を担当する総務省(テレコム部門)にも類似の部署があります。一方、電子政府については内閣や総務省の行政管理局が担当しており、マイナンバーは自治体が関係するので、同じ総務省でも自治行政局の管轄になります。
デジタル庁はITに関する部門をひとつにまとめ、IT政策を強力に推進することを目的に創設されます。新しく担当大臣に就任した平井卓也氏は、デジタル庁に強い権限を付与したいとの考えを示しています。デジタル庁が強力なリーダーシップを発揮するには、権限が必要なの間違いありませんが、実現はそう簡単ではありません。
各省のシステムには予算が紐付いているため、デジタル庁に予算を割り振った場合、担当府省の予算が減ることになりますから、一部の府省は予算の削減に抵抗する可能性があります。予算削減に抵抗すると書くと、いわゆる抵抗勢力的なイメージになりますが、必ずしもそうとは言い切れません。
予算を持った府省は当然のことながら、予算の執行に伴う行政上の責任も負います。今回、給付金のオンライン申請がうまくいかないといった問題が噴出しましたが、こうした行政上のトラブルが発生した際、どこまでをデジタル庁の責任にするのか、業務を直接所管する官庁の責任にするのかは大きな課題となります(問題を切り分けられないケースも出てくるからです)。
システムをデジタル庁に移管しても、最終的な業務の責任は各省が負うということでは、納得しないところも出てくるでしょう。一方、デジタル庁はあくまでもITの官庁ですから、各省の施策まで責任を負うというのは現実的に困難です。このあたりの線引きをしっかりしないと、デジタル庁への移管はうまくいきません。
デジタル政府の改革は長年の課題
今でこそ、日本の行政におけるデジタル化の遅れは多くの国民が認識するところとなりましたが、実は、この問題は政府内部で20年近く前から指摘され続けており、多くの取り組みが行われてきました。
しかし、こうした改革はほとんど成果を上げることができず、今に至っているわけですが、その根本的な理由は、権限と予算、そして責任をどうするのかという部分を明確にできなかったことです。
役所の中にITの専門家がいないことは以前から問題視されており、民間人を登用する制度も作られましたが、いくら民間人を登用しても、責任と予算の部分がはっきりしなければ、ほとんど機能しません。結果として行政IT化の遅れはさらにひどい状況となり、給付金のデジタル処理もままらないという状況に陥っています。
今回のデジタル庁の創設についても、この問題について決着できなければ、従来の取り組みと同様、絵に描いた餅に終わる可能性もあります。霞が関においてもっとも重要な、予算、権限、責任をどう位置付けるのか、最終的には菅首相の本気度次第ということになるでしょう。