ネット証券各社が相次いで売買手数料を無料化する方針を打ち出しています。ネット証券は株式売買の手数料が主な収益源ですから、手数料の無料化は自殺行為にも見えますが、各社が無料化に踏み切る背景には、実は経済学的な理由が存在しているのです。
米国ではすでに多くのネット証券が無料になっている
手数料無料化の口火を切ったのはネット証券最大手のSBI証券です。同社は昨年9月に各種手数料を3年をメドに無料化する方針を打ち出しました。突然の無料化表明にネット証券業界は騒然となりましたが、楽天証券、マネックス証券、松井証券、auカブコム証券など競合各社が次々と手数料無料化を表明しています。
実は米国ではネット証券の無料化が先行しており、日本にもこの流れが波及したという図式なのですが、全世界的に手数料の無料化が進むのは経済学的にはほぼ必然といってよい出来事です。その理由は、インターネットを使ったビジネスには経済学的に見て「限界コストの低下」と「ネットワーク外部性」という明確な特長があるからです。
限界コストというのは、生産量を1単位増加させるために必要な費用総額のことを指しています。従来型産業は生産量を2倍にしたければ、2倍コストをかける必要がありますが、ネットの場合には最小限の費用で利用者を2倍にすることが可能です。
極論すると、設備投資ゼロで無制限に収益を拡大できるポテンシャルを持っていると解釈してよく、こうした産業構造の場合、手数料を無料にしてでも顧客を獲得しなければシェア争いで負けてしまいます。こうしたビジネス構造のことを収穫逓増モデルと呼びます。
これに加えてネット・ビジネスの場合、サービスを利用する人が増えれば増えるほど、そのサービスの価値が高まるというネットワーク外部性という効果があります。このため、一定のシェアを超えると加速度的に利用者が増加し、その事業の価値は飛躍的に増大するのです。
ネット証券は顧客の資産管理ビジネスにシフトする
こうしたネット経済の基本的なメカニズムが働く以上、ネット証券のサービス手数料は限りなく安くなり、莫大な顧客を抱える数社に市場は集約されていく可能性が高いでしょう。日本でも各社の経営統合などが発生する可能性が十分にあります。
では、手数料を無料化したネット証券はどのように収益を上げるのでしょうか。自社の金融商品を販売することで得られる利益や、金利収入、銀行部門から得られる収益などが今後のビジネスの柱になると考えられます。業界トップのSBIは収益の多角化で先行しており、グループ全体に占める売買手数料収入比率はすでに10%以下にまで下がっています。
近い将来、ネット証券業界は、顧客の資産管理のようなビジネスにシフトしていくでしょう。顧客から資産を預かり、金融商品を販売したり、運用管理を請け負うことで、わずかな手数料や金利を徴収し、それを積み上げる形で売上高を形成することになります。