経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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米国で現実味を増す「富裕税」。導入されたら経済はどうなる?

 富裕層が保有する資産に税金を課す、いわゆる「富裕税」の導入が米国で大きな話題となっています。次期大統領選挙を前に、民主党の複数の候補者が富裕税を主張しており、民主党政権が誕生した場合には、富裕税が導入される可能性が出てきました。

富裕層は資金を遊ばせることはしないが・・・

 米国の次期大統領選挙をめぐっては、民主党の有力候補者2名が富裕税の導入を公約として打ち出しています。バーニー・サンダース上院議員のプランは、3200万ドル以上を保有する超富裕層に対して、金額に応じて一定割合の税率を課すというもので、エリザベス・ウォーレン上院議員は、純資産5000万ドル超に対して2%の税金を課す案(10億ドル超には6%)を示しています。

 かつて富裕税は過去、何度も議論されたことがありましたが、机上の空論であると一蹴されるケースがほとんどでした。しかしな今回は様子が異なります。米国では富の偏在化がかつてないほどの問題視されており、著名投資家のジョージ・ソロス氏のように、超富裕層の中からも、自ら富裕税に賛成する人も出てきています。

 富裕層が富を独占していることの最大の弊害は、国内の消費が阻害されるというものです。しかしながら、富裕層が富を独占することが経済にとってマイナスなのかは、簡単に結論付けられる話ではありません。

 富裕層は持っているお金をタンス預金しているわけではなく、そのほとんどを何らかの形で運用しています。マクロ経済的に見た場合、こうした貯蓄は最終的に銀行などを通じて、企業の設備投資に充当されますから、富裕層が持っている富は設備投資というフローに変わり、その分だけGDP(国内総生産)に貢献していると解釈できます。

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富裕層が負担を感じない範囲であれば一定の効果が期待できる

 しかしながら、多くの富を富裕層が独占的に所有していることは、消費という点ではマイナスになる可能性もあります。一般的に富裕層は高額な消費を行うものですが、いくら富裕層がたくさん消費するといっても、1人の人間が使う金額には限度があります。

 同じ金額を富裕層が独占しているケースと、富の大半を中間層が分散所有しているケースを比較した場合、消費の額は確実に後者の方が大きくなるでしょう。富の集中化が行きすぎた場合、消費停滞の原因になる可能性はそれなりに高いと考えてよいかもしれません。

 では、もし米国で一連の富裕税が導入された場合、どれほど効果を発揮するのでしょうか。

 米国では、上位1%の富裕層が全体の富の38.6%を占めており、確かに富の多くが富裕層に偏在しています。もし、米国の上位1%の富裕層が保有する資産に1%の税金をかけた場合、3500億ドルの税収を確保できる計算になりますが、これは日本円で約37兆円という金額であり、米国政府予算の約1割に相当します。

 この予算を中間層以下の教育支援や住宅支援などに費やし、中間層の生活水準を向上させれば、消費が拡大する可能性は高いでしょう。

 米国はもともと経済の基礎体力が高く消費が活発ですが、富の偏在化をこれ以上放置すると、景気の牽引役である消費を冷やす可能性があり、これを防ぐという意味では一定の効果を発揮する可能性があります。
 課税する金額が大きすぎると、一気に景気を冷やすリスクもありますが、超富裕層がそれほどの負担を感じない範囲であれば、意外と高い効果をもたらすかもしれません。

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