経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経営論

日本企業の経営は長期的という話は本当か?(後編)

 前回は、日本企業は過去10年、売上高がほとんど伸びていないにもかかわらず、社員数を増やしコストを増加させてきたという話をしました。社員数が増えているのは、余剰人員を外部に放出できないからですが、このコスト負担をカバーするため、一部の企業では、下請けなどに対する値引き要求を強くし、製品やサービスの品質を低下させています。

人手不足という話のウソ・ホント

 日本は人手不足と言われていますが、それはあくまで労働市場に限った話です。社会全体で見れば、中高年のホワイトカラーを中心に大量の人員が余っている状況です。

 リクルートワークス研究所の調査によると、日本企業の内部には、実は400万人もの社内失業者が存在していますが、これは全従業員の1割に達する数字です。時代の変化で新しい人材が必要となり、採用を増やしているものの、スキルが合わなくなった社員を抱えたままなので、コストが増えてしまうという仕組みです。

 何とか辻褄を合わせるため、人件費以外のコストカットを進めたわけですが、やはり限界があります。こうした状況にもかかわらず企業の利益が増えている最大の理由は実は減税です。

 政府は2012年以降、法人税の減税を繰り返しており、日本の法人税の基本税率は20%台前半まで低下しました。これに加えて、大企業を中心に租税特別措置という仕組みがあり、相当な金額の法人税を免除されています。

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このままでは将来の収益も危うい

 売上高が伸びず、人件費も削減できないので、品質を下げ、税金を安くしてもらって何とか利益を捻出しているというのが今の日本企業の実態といってよいでしょう。

 日本企業は多くの内部留保を抱えたままで積極的な投資をしていないと一部から批判されていますが、大量の余剰人員を抱えて機動力を失い、コストカットと減税で利益を捻出している状況では、積極的に投資できるわけがありません。

 当然のことですが、日本企業の売上高に対する減価償却費の比率は年々低下しており、投資を抑制していることが分かります。このままでは将来の収益にも影響を及ぼすでしょう。

 日本企業の経営は完全に目先のことだけに注力する状況となっており、このような体制が長続きするわけがありません。日本企業の組織や経営体制を抜本的に見直さなければ、取り返しのつかないことになる可能性があります。わたしたちに残された時間はあまり多くないでしょう。

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