加谷珪一の情報リテラシー基礎講座 第38回
新しい元号である「令和」をめぐって様々な議論となっています。以前は天皇陛下が崩御されてから新元号が決まっていましたから、どうしても喪に服すという雰囲気になりがちでした。
今回はそうではありませんから、新元号について活発に意見を言える状況になったといってよいでしょう。天皇陛下が生前退位を決断されたことの背景には、もっと大きな意味がありますが、元号についての議論が活発になったことも生前退位の大きな効果のひとつとってよいと思います。
国書なのか漢籍なのか
「令和」という元号については、自民党の石破茂元幹事長が「命令」を連想させるということから「違和感がある」と発言したり、中国後に詳しい識者が、現代中国語では「令和」というのはゼロサムゲーム、つまり少ないお金などを皆で奪い合うというニュアンスになるとの指摘を行うなど、様々な意見が出ているようです。
筆者個人の感想としては、他に候補になった元号と比較して「令和」はクールなイメージで好意的に捉えていますが、冒頭にも述べたように、様々な意見が出ることは自体は非常によいことだと思います。
令和については、その語感などに加え、出典についても様々な意見が出てきました。
これまで日本の元号は原則として漢籍から引用されていましたが、今回は国書である万葉集からの引用となっています。
筆者は基本的に、伝統となっているものはあまり簡単には変えない方がよいと考える立場なので、1000年以上も続いてきたやり方を、今の感情だけで簡単に変えてしまうことについては少し疑問を感じます(これに加えて、伝統を変えようという動きについて、いわゆる保守と呼ばれる人たちが強く主張していることにもやはり違和感を感じます)。
しかし、公表された令和の由来を聞くと、話はそう単純ではなかったようです。元号の議論は公開されませんから、真相は誰にも分かりませんが、選定に関わった学者の間で、相当な議論があったのではないかと推察されます。
限りなく漢籍からの出典に近い?
今回の元号選定については、安倍首相サイドから国書からの出典にして欲しいとの要請があったと報道されています。実際、採用された令和は万葉集からの出典(梅花の歌)だったわけですが、和歌ではなく序文として掲載されている漢文形式の文が出典元となっており、この序文は、従来から元号の出典としてよく用いられてきた中国の「文選」の一節をモチーフにしたものでした。
梅というのは、当時、中国からもたらされた外来種の花であり、日本の貴族の間では、中国から来た美しい花ということで、大変な梅ブームになっていました。つまり、万葉集の「梅花」は、中国との関連性が非常に濃いテーマということになります。
一部には、皇太子さまが、伝統を重視したいとのお立場から、漢籍からの出典を強く求めたとの報道もあり、関係者の間でも元号の出典については見解が分かれていたようです。
国書からの出典にして欲しいという官邸サイドの強い意向と、従来の伝統維持という異なった見解がある中で、うまく両方のバランスを取った出典ということのなのかもしれません。
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