経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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残業カットを下請けに押し付けていては問題は解決しない

 予想されていたことではありますが、働き方改革関連法の施行を前に、一部企業が残業時間を削減するため、下請け企業に無理に仕事を押しつけるケースが出てきています。中小企業には法律の施行が1年猶予されていますが、2020年は中小企業も残業規制の対象となりますから、これは場当たり的な対策に過ぎません。

残業カットに対処するため、下請け企業への丸投げが横行

 働き方改革関連法は2019年4月に施行されますが、この法律には残業規制に関する罰則規定があり、企業にとっては厳しい内容です。

 本来、この法律の趣旨は、業務のムダを見直し、それによって残業を減らすということですが、一部の企業はこうしたプロセスを避け、一律に残業カットに動いています。しかしながら業務のムダを見直さずに、残業だけを強制的に減らしてしまえば、当然、業務が回らなくなります。

 その結果、減らない仕事に対応するため、大企業の中には下請け企業などに、その仕事を無理に押しつけるケースが出てきています。

 2018年12月に中小企業庁が、約8000社の中小企業に対して行ったアンケート調査によると、発注する大企業が残業時間を削減するため、中小企業に仕事を丸投げするケースが増えており、6割の中小企業が納期を短くするよう求められたと回答しています。
 また休日出勤を一律に禁止してしまったことから、休日でなければ絶対にできない業務に支障が出るなど、本末転倒な状況も報告されています。

 このような事態が発生する可能性については、以前から指摘されていたことではありますが、調査結果を見ると「やっぱり」という感じです。

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フリーランスの人にシワ寄せが?

 当初、法律の対象となるのは大企業のみですから、こうした中小企業への押しつけが可能となるわけですが、2020年の4月からは厳しい残業規制が中小企業にも適用されます。

 中小企業が法律をしっかり守った場合には、大企業から中小企業への押しつけはできなくなりますし、それでも大企業が無理強いするということになれば、今度は中小企業がサービス残業など、違法行為に走る可能性が高くなります。いずれにせよ、業務のムダの見直しを伴わない働き方改革は、行き詰まってしまうことが明白といってよいでしょう。

 ここで懸念されているのが、フリーランスなど、会社員ではない業務形態の人たちです。

 企業への発注では無理ができないとなった場合、今度は、フリーランスの人たちに、過剰な仕事を押しつけるというケースが十分に考えられます。彼等はこうした法律の対象外ですから、企業の側はいくらでもムチャを要求できることになります。

 このようなことばかりを繰り返していては、いつまで経っても日本の生産性は向上しません。

 生産性を上げるには、利益を増やすか、業務のムダを削減するのかの二つにひとつです。他社に仕事を押しつけても、経済全体では何の解決にもならないという現実について、社会全体としてもっと共有する必要があるでしょう。

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