日本が諸外国と比較して生産性が低く、これが様々な問題を引き起こしていることは、社会の共通認識となりつつあります。
生産性が低いことの元凶は長時間労働といわれていますが、これはむしろ結果であり、生産性の低さが長時間労働を招いています。そして生産性が低い理由については、日本人がこれまで頑なに避けてきたあるテーマが密接に関係しています。
日本の生産性は相変わらず先進国最下位
日本生産性本部の調査によると、2017年における日本の1時間あたりの労働生産性は47.5ドルと、先進7カ国(G7)の中では最下位にとどまりました。日本の労働生産性は、過去47年間にわたってずっと最下位が続いています。働き方改革の進展によって状況改善が期待されていましたが、マクロ的な数字にはまだ反映されていないようです。
2018年は残業時間の削減をさらに進めた企業も多いですから、来年は多少、結果が良くなっている可能性もありますが、現実はそう簡単ではないでしょう。というのも、日本の生産性の低さというものが、実は過剰雇用に関係している可能性が否定できないからです。
同本部では、同本部では1時間あたりの生産性に加え、労働者1人あたりの生産性についても比較を行っていますが、こちらの比較でも日本はやはり先進国中、最下位となっています。つまり総労働量ベースの生産性も、人数ベースの生産性のどちらも低いという結果になっているわけですが、これは何を意味しているでしょうか。
もし日本の労働時間が他国に比べて著しく長いという場合には、それが最大の要因となりますが、実は日本人の総労働時間はそれほど長くありません。一部のブラック企業では際限のない長時間労働が行われていますが、平均的な労働時間は英国や米国と大差ないというのが現実です。
日本は今となっては世界でもっとも休日が多い国のひとつとなっています。全員が休日出勤しているわけではありませんから、年間総労働時間は休日が多い分だけ減るのは当然の結果でしょう。
日本企業が過剰雇用である可能性は否定できない
もし総労働時間が他国とあまり変わらないのだとすると、理屈上、生産性を引き下げる要因は、労働者数しかありません。つまり企業が過剰な雇用を抱えており、適材適所になっていないため、生産性を引き下げているという可能性が考えられるわけです。下世話な言い方をすれば、いわゆる「働かないオジサン」が多数在籍しており、これが生産性を引き下げているという解釈です。
リクルートワークス研究所の調査によると、日本の企業には、会社に所属していながら実質的に仕事がない、いわゆる「社内失業者」が400万人も在籍しているそうです。
日本は空前の人手不足と言われており、政府はこの問題を解決するため、かなり乱暴な形で移民の受け入れに舵を切りました。しかし、企業内で働いていない人が400万人もいるということになると話の前提条件が変わってきます。現在、日本で働いている外国人労働者の数は100万人で、移民政策へのシフトによってあらたに受け入れる外国人は、年間わずか数万人です。
計算上は、企業の社内失業社をフル活用すれば、人手不足などたちどころに解消するというレベルなのです。雇用のミスマッチが存在している場合、人手不足と過剰雇用というのは容易に両立する話と考えて良いでしょう。
これはあくまでも計算上の話で、実際はそう簡単にはいきませんが、企業の体制をもっとスリムにすれば、人の移動が活発になり、それに伴って雇用形態もより柔軟になるのは間違いありません。転職も増えますから、企業活動が活発になるのは確実でしょう。これによって、現在、発生している人手不足の一部をうまくカバーできる可能性は十分にあります。
いくら雇用が保障されていても、社内失業の状態では本人のモチベーションは下がるでしょうし、周囲にもよい影響を与えません。雇用に関する話は多くの人にとって一種のタブーであり、大手メディアは数字が取れないので、あまり記事にしません。
しかし、本当に日本経済の活性化を考えるのなら、雇用の問題を避けて通ることができません。不都合なテーマであっても、それを直視し、感情的にならず冷静に議論する勇気が必要でしょう。
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