このところ大規模な都市開発が相次ぎ、街中には巨大なタワマンやオフィスビルが立ち並ぶようになりました。しかし、こうした開発案件の中には景観をまったく考慮に入れないものも多く、ここ数年、日本の都市景観が激変するという現象が起きています。
都市景観というのは、長期的に見れば貴重な財産であり、先進国の場合には、むやみに新しいビルを建てるよりも、はるかに経済的メリットが大きいというケースも少なくありません。中国のような新興国ならは話は別ですが、日本は先進国(なはず?)ですから、もっとソフトパワーが持つ力を考えて、都市開発を進めた方がよいでしょう。
京都市が打ち出した建物規制の緩和方針
先日、京都市が歴史的景観の保全を目的とした建物の高さ規制について、緩和する方針を打ち出したことが波紋を呼んでいます。
京都では昭和30年代から景観に関する条例を定めており、屋外広告の制限や美化地区の設定、建物の高さ制限などを実施してきました。2007年には新しい景観政策を策定し、建造物に対する、より厳しい規制を導入しています。
京都の街はビルの高さが揃っており、寺社や町屋のない一般的なエリアでも独特のたたずまいがありますが、これは一連の規制によって生み出されたものです。京都がこうした取り組みを行ってきたのは、事業者も含めて、多くの住民が都市景観を保全することが最終的に大きな利益につながるとの意識を持っていたからでしょう。
しかしながら、近年は京都も人口減少が進み、他の自治体への転出超過が続くなど、都市の衰退が懸念されるようになってきました。このため市では、オフィスビルやタワマンなどを容易に建設できるよう、景観規制の緩和について検討を開始したわけです。
京都は美しい都市景観を持つ街として知られているので、今回の措置は全国的にも話題となったのですが、容積率の緩和による都市景観の改変はすでに全国各地で急ピッチで進んでいます。
日本では価値の高い建築も次々に壊されている
かつては東京でも、丸の内に代表されるようにビルの高さが揃っており、美しい景観を保持しているエリアはたくさんありました。しかし、景気対策から大幅な容積率の緩和が行われ、もともとの地形を生かさず、効率を最優先したビル建設が相次いでいます。同時に建築としての価値が高い物件の取り壊しもかなりのペースで進んでいるというのが実状です。
東京都港区赤坂にあるホテルニューオータニの向かい側、現在「東京ガーデンテラス紀尾井町」が建っている場所にはかつて「赤坂プリンスホテル」がありました。同ホテルの新館は世界的な建築家であった丹下健三氏が設計したもので文化的価値の高いビルでしたが、築29年であっけなく解体されてしまいました。
日本モダニズム建築の傑作ともいわれた「ホテルオークラ東京本館」も同じです(写真)。ホテルオークラは2014年5月に高層ビルへの建て替え計画を発表し、その後、旧本館は取り壊されました。旧本館の取り壊しについては、海外の文化人らが反対を表明し、ワシントンポストなど海外の主要メディアも取り上げる事態となったのですが、計画は予定通り進められています。
日本では建造物を長期間利用せず、すぐに取り壊してしまうことが多く、その結果、都市景観が維持できないという状況になっています。この是非に関する議論になると、決まって出てくるのが「日本は地震国なのだからやむを得ない」「ビルを新しくしなければ経済成長できない」といった一方向の議論です。
日本は地震が多く、築年が古いビルの中に耐震性が低いものが多いのは事実ですが、耐震補強を行って継続利用できているビルもあることを考えると、地震国なので古いビルが許容されないというのは一種の思考停止と考えられます。
米国の西海岸やイタリアなど、日本に匹敵する地震多発エリアであっても古いビルはたくさんあります。要はコストと技術の兼ね合いであり、検討する余地は十分にあるはずです。日本が技術大国というならなおさらでしょう。
ビルを新しくすることが必ずしも成長にはつながらず、むしろ古いビルを残した方が経済的メリットが大きいということについては、次回に解説したいと思います。