お金持ちを科学する 第31回
この連載では、イノベーションは大きな資産を作るチャンスになると説明しました。では時代の変化やイノベーションをいち早く知るにはどうしたらよいのでしょうか。
「すでに起こった未来」を探せ
わたしたちは予言者ではありませんから、未来を完璧に予測することは原理的に不可能です。しかし、未来について、ある程度の範囲で見通すためのヒントはあちこちに存在しており、成功者はこうした情報をフル活用しています。
著名な経営学者であるピーター・ドラッカーの名言に「すでに起こった未来」というものがありますが、これはまさに未来を見通すためのノウハウといってよいでしょう。
ドラッカーが言いたいことは、非連続的な未来であっても、それは急に訪れるものではなく、断片的ではあるが、すでに起こっていることがベースになっているということです。
イノベーションは何の前触れもなく、非連続的に発生するというイメージがありますが、実際にはそうでないケースがほとんどです。今流行りのスマホやタブレットを例に考えてみましょう。
アップルのiPhoneは革命的な商品といわれています。確かにパソコンを中心に展開してきたIT業界の流れがこれで一気に変わってしまったのは事実です。しかしiPhoneが完璧に非連続的なイノベーションなのかというとそうではありません。
大きな動きならある程度の予測は可能
革命的に見えるiPhoneも、同じコンセプトの商品は実はかなり前から存在していたのです。
シャープが2001年に発売したザウルスという商品はコンセプトはかなりiPhoneに近いものですし、アップル自身も1993年にニュートンというザウルスに似たコンセプトの製品を発表しています(シャープのザウルスも、アップルのニュートンは市場に受け入れられず撤退しています)。
ビジネス的にはどちらも失敗でしたが、現在のiPhoneに通じる基本的なコンセプトはとっくの昔に姿を現していたのです。アップルはむしろ、ニュートンをもう一度復活させようという思いでiPhoneを商品化していますから、事情を知っている人にとっては必然的に登場した製品ということになるでしょう。
世の中にある製品やサービスにそれなりの注意を払っていれば、こうした商品がいずれ登場してくることは、予想できたということになります。当時はモバイル通信回線の問題から普及には至りませんでしたが、この問題が解決すれば、一気に普及する可能性があったわけです(結局、インターネットと携帯電話がそのきっかけとなりました)
時代の変化が読めない人というのは、新しいものに触れる機会が少ないのではなく、目に触れることがあっても、今の常識にとらわれてしまい、無価値と判断しているだけなのです。
こうした先入観を排除することによって、大きな動きであれば、ある程度までなら予測が可能であり、この予測をどれだけ投資やビジネスに生かせるのかで勝負は決まってくることになります。