加谷珪一の年金教室 第9回
年金を支給される年齢になっても働き続けていると、年金が減らされてしまうので、働かない方よいという話を耳にすることがあります。これは本当なのでしょうか?
高額所得者以外は減額の対象にはならない
結論から言うと、65歳以上の場合、よほどの高額所得者でなければ、年金が減らされることはありませんので、ほとんどの人はそうした心配をする必要はないでしょう。
確かに現行の年金制度では、年金支給開始年齢に達した厚生年金の受給者が、一定以上の収入を得ていた場合、年金額が減額となる仕組みになっています。
減額となる基準は、60~64歳までと65歳以上では異なっており、64歳までは、賃金と年金の合計額が月28万を上回る場合、65歳以上では賃金と年金の合計額が月46万円を上回る場合に、年金が減額されます。
ここで言うところの賃金というのは、毎月の給料に加え、年間賞与の額を1月あたりの金額に換算した金額を加えたものです。
年金と賃金を合わせた年収が、64歳までは336万円、65歳以上では552万円を上回る場合、増加分に応じて年金が減額となります。特に65歳以降は、基本的には再雇用ということになりますから、この年齢で年収552万円というのはかなりリッチな部類に入るはずです。64歳までの間も、年収総額は働いた方が大きくなりますから、やはり仕事は続けた方がよいということになります。
こうした状況を考え合わせると、年金が減額されるからといって働かないというのは、所得が多い人以外にはあまり関係ない話ともいえます。
今後は生涯労働が基本となる
現在、この制度によって年金を減額もしくは停止されている人は120万人ほどいますが、政府は高齢者の就労を促進するという立場から、制度の見直しについて検討を始めています。
ただこの制度を廃止すると高額所得者にも年金が支給されてしまうため、高額所得者の収入がさらに増え、格差が拡大するとの意見も出ているようです。
ただ全体的には、生涯労働を前提として社会保障制度を構築する方向で動いており、就労している人に対する年金の減額は見直される可能性が高まっています。
仕事を辞めたてのんびりしたいと思っていた人にとっては、あまり歓迎したくない話かもしれませんが、体が動く限りは働き続けるというのが、今後の標準的なライフスタイルとなるでしょう。