経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 社会

地方への移住がなかなか進まない理由

 政府が東京から地方への移住者に対して、最大で300万円を支給する施策について検討を進めています。現金という直接支援に乗り出すということは、ウラを返せば移住が進んでいないということですが、背景には何があるのでしょうか。

雇用のミスマッチが存在している

 政府は、東京の一極集中を是正するため、地方に移住する人を30万人増やすことを目標に掲げています。地方移住に対する関心は高まっており、特に最近は20代の移住願望が強くなっているといわれます。地方移住の支援を行っている「ふるさと回帰支援センター」への問い合わせ件数もこのところ急激に増加しているそうです。

 しかし、移住について関心があることと、実際に移住を実行することには隔たりがあります。

 よく言われるのが仕事の問題です。地方は深刻な人手不足といわれていますが、一方で、都会からの移住者の要望を満たす雇用はほとんどありません。つまり雇用に関する深刻なミスマッチが存在しているわけです。地方の物価が安いといっても、希望する仕事が見つからないことには、実際に移住することはできません。

 今回、検討が進められている制度は、現地で起業した人には最大300万円、現地の中小企業に転職した人には最大100万円を支援するという内容ですから、地方への移住を進めると同時に、地方での起業や就職が増えることを期待してのものと考えられます。

 しかしながら、地方への移住が進まないのは、必ずしも経済的な理由だけではありません。むしろ社会的な問題が山積しており、これが障壁となっている可能性が高いのです。

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日本の社会そのものが問われている

 最近は、SNSで移住者の情報がネットで拡散されるようになっていますが、一部の地域では村八分のような行為が行われており、都会から移住した住民が行政サービスを受けられないという事態が発生しているそうです。
 ネットでの情報ですから真偽の程は分かりませんが、似たようなケースがたくさんネットにアップされているところを見ると、ある程度までは本当の話のようです。

 筆者は宮城県の出身ですから、地方のことは実感としてよく理解できる立場ですが、現代の民主国家において納税の義務を果たした住民が行政サービスを受けられないという事態は、いかなる理由があっても許容されることではありません。もしこの話が本当であれば、地方、都会という話ではなく、近代民主国家そのものの問題といってよいでしょう。

 逆に一部の移住者が地域住民とトラブルを起こしているケースもあるようですが、仮にそうだとしても、その解決方法や対処方法は、合理的なものでなければいけません。一部とはいえ、前近代的な状況が放置されているのであれば、移住政策など絵に描いた餅となってしまいます。

 経済的に見た場合、人口減少が進む社会では、都市部への人口集約が発生するのはごく自然なことであり、過疎地域への移住促進はかえって逆効果になる可能性もあります。しかし国民の選択として過疎地域への移住を推奨するというのであれば、まずは基本的な社会インフラをしっかり整備しなければ何も始まりません。

 地方移住の問題というのは、実は日本社会の本質そのものが問われているのです。

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