経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

ロシアのプーチン大統領が爆弾発言を行った背景

 ロシアのプーチン大統領は2018年9月12日、各国首脳が集まる経済フォーラムの会場で、突如「前提条件なしの日露平和条約の締結」を提案しました。事前通告はなく、日本にとってはこれまでの日露交渉の経緯をすべてひっくり返される事態となってしまいました。

すべて周到に準備されていた?

 爆弾発言が飛び出したのは、ウラジオストクで開催されていた経済フォーラムで、会場には安倍首相や中国の習近平国家主席らがいました。プーチン氏は「今、思いついたばかりだ」と前置きしたそうですが、おそらくそうではないでしょう。

 2日前に日露首脳会談を行ったばかりですし、しかも習氏ら数多くの首脳が参加しているフォーラム会場での発言です。提案内容を既成事実化することを念頭に、事前にすべて準備していたと考えるのが自然です。

 日本とロシアは平和条約の締結を目指して交渉を続けていますが、日本側の大前提は北方領土問題の解決であり、これが実現しない限り、平和条約の締結はないという立場です。

 これまでプーチン氏は日本に対して、笑顔のアプローチを続けてきましたが、その理由は、2014年のクリミア併合以降、国際社会でロシアが孤立していたことに加え、中国とも緊張関係にあったことから、日本の利用価値が高かったからです。日本に接近することでG7(主要7国)の結束を乱し、中国を揺さぶろうという戦略です。

 日本人はお人好しですから、相手がニコニコして近づいてくると安易に付き合ってしまう傾向が顕著ですが、歴史的経緯や地理的条件を考えた場合、ロシアと日本は基本的に利害が一致しない国と考えるべきでしょう。ロシアとの接近にはリスクが伴うことについては一部から指摘されていましたが、そのリスクが顕在化した格好です。

putinhatugen

原理原則を貫くことが重要

 このところ欧州各国はロシアに対して軟化姿勢を強めておりロシアの孤立状態は緩和されつつあります。中国とロシアの経済的な関係も密度が濃くなっており、ロシアにとって日本の利用価値は薄れつつあります。

 日本がロシアに接近していたことは周知の事実ですから、このタイミングで日本が外交方針を急転換することは簡単ではありません。このあたりの状況をプーチン氏が絶妙に読み取り、はしごを外すような態度に出ても、日本側は引くに引けないだろうと判断したものと思われます。

 今回のプーチン氏の発言は、かなり失礼なものといえますが、日本が感情的に反発してもあまり意味はありませんし、あえてロシアと敵対するというような大胆な外交を行うのは事実上困難でしょう。

 日本側としては、北方領土の解決がなければ平和条約は締結しないという従来方針を堅持し、淡々と交渉を続けていくよりほかなさそうです。

 ロシアは日本に対して天然ガスの輸出やサハリンの開発ビジネスなど、おいしいエサをちらつかせてきますが、天然ガスは米国からも輸入が可能であり、ロシアにこだわる必然性はありません。お金との交換ではなく、原理原則を貫くことが何よりも重要でしょう。

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