経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 投資

利率と利回りの違い

加谷珪一の金利教室 第7回

 金利を扱う際によく混同されるのが利率と利回りの違いです。単語としては小さな違いですが、投資の世界では極めて大きな違いとなりますから注意が必要です。

利率は表面的な金利、利回りは本当の金利

 利率とは債券などにおいて、額面の金額に対して毎年受け取る利子の割合のことを指しています。額面100円の債券があり、毎年2円の利子を受け取れると仮定した場合、100円の額面に対して2円の利子なので、利率は2%ということになります。

 一方、利回りというのは、投資金額に対して何%の収益があったのかを示す概念です。先ほど説明した利率が2%の債券を例にとって考えてみましょう。

 この債券を額面で購入して1年後に額面価格で売却すれば、100円の投資が1年後には102円になって返ってきます。したがって、この債券の利回りは普通に考えて2%ということになります。このケースはたまたま利率と利回りが一致しています。しかし、この債券を97円で手に入れた場合には話は変わってきます。

 この債券を97円で購入した場合には、1年後に、利子の2円と売却代金の100円の両方が入ってきます。97円の投資に対して102円が返ってきたわけですから、この投資の利回りは5.2%と計算されます。同じ利率でも取得価格が違うと利回りは大きく変わってくるのです。

 ここで疑問を持った読者の方がいるかもしれません。取得価格が安ければ、利率を利回りが上回ることは分かりましたが、そもそも額面100円の債券を97円で入手することは現実的に可能なのでしょうか?

 結論から言うと、97円で買うこと可能です。その理由は、本コラムで何度か指摘している時間の概念と大きく関係しているのです。

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物価の予想と大きく関係してくる

 額面が100円で利率が2%の債券を購入すると、1年後には102円が返ってきます。1年の間に物価が上がらなければ、あるいは物価が上がっても2%以下であれば、この債券の投資は成功ということになるわけです。
 
 ところがインフレが進んでいて1年後には物価が5%程度上昇すると皆が考え始めたらどうなるでしょうか。1年後に102円が返ってきても、1年前に100円だった商品はすでに105円に値上がりしています。これでは債券に投資しても損をするだけになってしまいます。

 この時、債券を持っている人が何らかの理由で現金が必要となり、債券の売却を検討したとしましょう。この債券は果たして100円で売れるのかというと、そうはいきません。少なくとも値上がり分まで利回りが上がっていないと、この債券を買う投資家はいないはずです。

 先ほど、この債券は97円で購入すれば利回りは5.2%になると計算しましたが、最低でも97円以下でなければ、この債券は売れないということになります。

 1年後に物価が5%上昇すると皆が予想したということは、本来であれば、金利は5%以上に上昇していなければなりません。しかし、この債券は利率が固定で最初から2%と決まっています。
 利率が固定化している中で、利回りを上昇させるには、逆に取得コストを引き下げるしか方法はありません。このため取得コストが97円まで下がることによって、利回りを5%まで引き上げ、市場で決められた水準まで調整が行われるのです。

 債券の価格というのはこのようにして動いていきます。そして、利回りと利率の違いが生まれることになるのです。

加谷珪一の金利教室 もくじ

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