加谷珪一の超カンタン経済学 第26回
これまで解説してきた分析手法は、基本的にIS-LM分析を基礎としています。IS-LM分析では、貨幣需要は金利によって変わることが大前提です。これは主にケインズ経済学で提唱されたものですが、貨幣については異なる見解もあります。それが古典派による貨幣数量説です。
貨幣数量説では物価は貨幣の量で決まる
貨幣数量説は、物価というのは貨幣の量に比例するという経済学上の理論です。貨幣数量説では、貨幣の量は実体経済に影響を与えず、見かけ上の物価を変えるに過ぎません。つまりお金の量が2倍になれば、物価が2倍になるだけで、お金の量で経済が変化するとは考えません。
これは貨幣が取引の仲立ちをするだけの存在という考え方ですから「貨幣の中立性」とも呼ばれます。
貨幣数量説は長期的には、ある程度、成立することが分かっています。しかし短期的には、貨幣の量が経済に影響を与えますから、状況に応じた使い分けが必要となるでしょう。
貨幣数量説に基づいて、シンプルに物価と貨幣の関係を示したモデルが、フィッシャーの交換方程式です。
MV=PT
Mは貨幣の量、Vは貨幣の流通速度、Pは価格、Tは取引数です。Vは各国ごとに固有の数字があり、短期間では変化しないと考えられています。
Tの取引量は実質GDP(国内総生産)で代替することが可能ですから、物価水準Pを決めるのは貨幣の量とGDPの2項目ということになります。実質GDPも大きく変わらない場合、貨幣の量が物価水準を決めるという結論が得られます。
量的緩和策が貨幣数量説に基づいているという話は本当か?
貨幣数量説に立つと、貨幣の量をコントロールしても、物価を上下させることはできますが、実体経済に影響を与えることはできません。したがって各種の金融政策は無効ということになります。
現在、日銀が行っている量的緩和策は、日銀が積極的に資産を購入して市場に貨幣を供給する政策ですから、基本的には貨幣数量説をべースにしています。
しかしながら、厳密な意味での古典派的な貨幣数量説は金融政策を否定していますから、量的緩和策は貨幣数量説だけに基づいているわけではありません。貨幣数量説の考え方に、インフレ期待(合理的期待形成)という概念をミックスしたのが、現在の量的緩和策ということになるでしょう。
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