牛肉価格の高騰で牛丼チェーン各社が厳しい状況に追い込まれています。直接的な原因は米中貿易戦争ですが、背景にはアジアの消費市場が拡大しているという大きな流れがあります。
このところ魚介類の調達も難しくなっているのですが、魚だけでなく、いよいよ牛丼も食べにくくなる時代が到来するのでしょうか。
直接の原因はトランプ大統領
このところ牛丼チェーン各社が、牛丼以外のメニューに力を入れていることは多くの人が認識していると思います。顧客の多様なニーズに応えるという側面もありますが、牛丼以外のメニューを拡大している最大の理由は牛肉価格の高騰です。
牛丼には主に米国産の輸入牛肉が使われていますが、これまでは需要と供給のバランスがうまく均衡していました。
なぜなら、牛丼に使われるショートプレートという部位は脂身が多く、米国ではほとんど消費されないからです。日本という大口の購入者がいなければ廃棄されるだけなので、日本だけが安値で買い続けることが可能だったわけです。
ところが、こうしたバランスを崩す出来事が発生しました。米中貿易戦争です。
トランプ政権は莫大な貿易赤字を抱える中国をターゲットに敵対的な通商政策に乗り出しました。中国は米国からの圧力を受けて米国産牛肉の輸入解禁を表明しました。
市場ではこうした動きを見越して、輸入解禁前後から牛肉の価格が急上昇を開始。2016年にはキロあたり600円以下だったショートプレートが一気に値上がりし、中国の輸入解禁前後には一時800円を突破しました。
原材料価格の高騰は構造的な要因であり、一時的なものではない
先ほど説明したように、これまでショートプレートを輸入するのは日本だけでしたが、実はショートプレートは中国の火鍋にぴったりで、輸入解禁を受けて中国も輸入を拡大するとの見方が強まり、市場価格が高騰したのです。
火鍋の市場がそれほど大きいとは考えにくいのですが、中国は人口の絶対数が多いですから、ある部位の輸入がちょっと増えただけでも、受給バランスが簡単に崩れてしまいます。少なくとも市場価格にはかなりの影響を与えることは間違いありません。
牛丼チェーン各社は、牛肉については長期契約を結ぶことが多いですから、牛肉価格が上がったからといって、すぐに商品の価格が値上がりすることはないでしょう。
しかしながら、米中貿易戦争が一段落すれば、以前と同じように安心して牛肉が入手できるのかというとそうでもなさそうです。
中国経済は伸びが鈍化しているとはいえ、高成長が続いていることに変わりはありません。しかも中国社会は急速に豊かになっており、国内消費はさらに拡大する可能性が高いとみてよいでしょう。牛肉の消費と社会の成熟度は通常、比例しますから、今後、牛肉へのニーズは高まることはあっても減ることはないと考えるのが自然です。
東南アジアも状況は同じです。中国と同様、東南アジアにおいても急速に内需経済が育ってきており、先進国並みの消費経済が確立するのはそう先のことではなくなりました。アジアの中において、日本だけが大量の食材を輸入するという時代はすでに過去のものとなっているのです。
牛丼チェーンは「安い」の代名詞でしたが、そうではなくなるのも時間の問題かもしれません。