加谷珪一の知っトク経営学 組織編 第7回
【マグレガーのX理論・Y理論】
前回、解説したマズローの欲求段階説は経営学の世界に大きな影響を与えましたが、一方で多くの批判も寄せられました。人の欲求を単純に5つに分類してしまってよいのかという基本的な指摘に加え、欲求は必ずしも下位から上位に進むとは限らないのではないかという、理論の前提条件に関するものもありました。
欲求を5つに分類し、より次元の高いところにシフトしていくという考え方は多少乱暴かもしれませんが、欲求段階説は、モチベーションに関するメカニズムをよく表していますし、何より論旨が明快です。多少の批判はあったものの、現代でも大きな影響を持ち続けていることもうなずける話です。
人のマインドには対立軸が存在する
マズローの欲求段階説をベースに、これをさらに発展させたのがマグレガーによるX理論とY理論です。マグレガー(1906~1964)はマズローにおける低次元の欲求をX、高次元の欲求をYとし、これらに対立軸の概念を持ち込むことで理論を精緻化しました。
X理論に分類される欲求は、マズローにおける低次元の欲求、つまり生理的欲求や安定欲求ということになります。場合によっては所属の欲求もここに入る可能性があります。
X理論では、人は生理的に仕事が嫌いであり、「できれば働きたくない」という感覚を持っていることが大前提になっています。したがって、こうした人をうまく働かせるには、強制や命令といった措置が必要となります。
しかし、人には現状を打開しようという意思がありますから、そのままの状態が続くことを望みません。このため、強制や命令に加えて、成果に応じた賃金などインセンティブがあった方が有効だとしています。また、安全や所属に対する欲求を満たすためには、公平な採用や処遇が重要であるとも指摘しています。
しかし、これらの措置はあくまでX理論に属する欲求に対してのみ効果を発揮します。マズローが提唱したように、人は単純な動物ではありませんから、基本的な生活が満たされるようになると、より高次元の欲求が出てくることになります。マグレガーは、尊厳欲求や自己実現欲求といった次元の高い欲求についてはY理論として分類しました。
Y理論の人間観はX理論とは正反対
Y理論における人間観は、X理論とは正反対です。
Y理論では、人は進んで仕事をする存在であり、常に創意工夫を行って問題を解決することが大前提となっています。したがってこうした人間に対しては、強制や命令といった管理手法は馴染まないという解釈が成立するわけです。
つまり、尊厳欲求や自己実現欲求をうまく満たすためには、自発的に問題を解決できる環境を整えることが重要になってきます。
具体的な方策としてマグレガーは、管理者と部下が一体になって目標設定や評価を行う仕組みを提唱しました。多くのグローバル企業では、こうした多面的な評価が行われていますが、マグレガーの理論はこのような考え方のベースになっています。
ここで説明したX理論における人間観とY理論における人間観は対立軸として捉えるべきものといってよいでしょう。この理論を自身のモチベーション管理や社内のマネジメントに応用する場合には、人間はこうした矛盾した二つの感情を持ち合わせているものだということを明確に意識することが重要です。
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