経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. テクノロジー

「変な人」の募集で人材は育つのか?

 総務省が「変な人」の募集を開始したことが大きな話題になっています。
 「変な人」というのは、情報通信分野において、従来にはない斬新な発想で問題解決できる人材のことを指しており、具体的にはアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏やフェイスブック創業者のザッカーバーグ氏のような人物を想定しているそうです。

もし本当にジョブズ氏のような人が候補に上がったら?
 出る杭は打たれるということわざがありますが、日本は基本的に才能を持った人を皆でつぶす社会ですから、こうした取り組みはやらないよりは、やった方がずっとマシだと思われます。

 しなしならが、選定作業を外部委託するとはいえ、総務省という役所が「変な人」を募集して、本当の意味でイノベーティブな人を集めることができるのかは、やはり非常に疑問なところです。

 というのも、「変な人」のプロジェクトで例として取り上げられているジョブズ氏のような人物が実際に候補に上がってきた場合、ほぼ100%の確率で不採用になる可能性が高いからです。

 あまり知られていないもかもしれませんが、ジョブズ氏の人生は、反社会的な経歴で満ちあふれています。

 彼はもともとヒッピーの出身です。彼は若い頃、長髪で風呂に入らないことで有名でしたが、本人はベジタリアンなので体臭がないと頑なに信じており、周囲の人はその体臭にホトホト困っているという状態でした。
 ヒッピーですから、フリーセックスとドラッグは当たり前ということになります。

 アップルの経営者として高い地位を得てからも、ピッピー的な発言はやまず、ライバルのビルゲイツ氏に対して「アイツはドラッグをやったことのない堅物だからダメなんだ」と罵倒したこともあります。
 彼が一時的にアップルを追い出されていた時には、家に籠もりっきりで、朝から晩まで、大音響でボブ・ディランを聞いていたそうです。

 ジョブズ氏がアップルを設立する前、最初に始めたビジネスは、電話会社の交換機を不正利用し、タダで国際電話をかけられるという違法機器の販売です。

 また彼が開発したパソコンのマックについても、様々な技術盗用の噂が根強く残っています。真偽の程は定かではありませんが、彼の起業家精神の根底にはこうした反社会、反秩序的なマインドがあり、それがアップルを支えていたことは間違いありません。

 彼はドラッグを使うことによって、脳の記憶領域が拡張できると考えており、コンピュータはその延長線上にあると考えていたフシがあります。天才とはこういう発想をする人なのです。

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重要なのは変な人を探すことではなく、イノベーティブな人を否定しないこと
 米国のすごいところは、このような反社会的、反抗的な若者を受け入れ、その才能を開花させるステージを用意するところです。日本であれば、逮捕しろ、処罰しろ、という声の嵐で、彼はとっくに刑務所暮らしだったでしょう。

 実はシリコンバレーのIT企業は、こうしたヒッピー文化に支えられて成長してきた面があり、反社会性と不可分なところがあります。

 筆者はこうしたスタンスに賛同しているわけではありませんし、推奨するわけでもありませんが、一定程度、既存秩序への反発がないと、イノベーションは生まれてこないという考え方には同意します。

 しかし、日本はこうした価値観とは正反対の社会です。ファイル交換ソフトWinnyの開発者である金子勇氏は逮捕、起訴されてしまいました。
 日本では包丁を使った犯罪が発生すると、包丁を作った人が逮捕されてしまうのです(長い裁判の末ようなく無罪となりましたが、金子氏は心労がたたったのか、裁判後、急死されてしまいました)。

 イノベーティブな人に「変な人」が多いのは事実だと思いますが、それは「変な人」にイノベーターが多いということを意味するわけではありません。「変な人」を100人連れてきたところで、その中にイノベーターがいる確率は、普通の人の中にイノベーターがいる確率とあまり変わらないでしょう。

 しかも、官庁が募集する「変な人」ですから、それは体制側から見て安全な人物であり、そうなってくると、逆にイノベーターが存在している確率は少なくなるかもしれません。

 冒頭にも述べましたが、アイデアをつぶしてばかりの日本の現状を考えれば、こうした取り組みはそれなりに評価してもよいと思います。

 しかし本当に大事なのは、変な人を探すことではなく、イノベーティブだが少々危険な人物が出てきたときに、この人物を、問答無用で排除してしまわず、良い方向に導いていくための社会的な知恵を皆で出し合うことです。これができれば、黙っていても、革新的な技術は登場してくるはずです。

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