経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. トピックス

大相撲の「女人禁制」問題が示す「思考停止」の恐ろしさ

 大相撲の地方巡業で、挨拶の最中に倒れた市長を助けようと土俵に上った女性に対し、協会側が、土俵から下りるよう何度もアナウンスしたことが問題視されています。この話は、思考停止というものが、いかに私たちの生活を蝕むものなのか如実に示しています。

土俵から下りるよう指示した本当の原因は「思考停止」

 2018年4月4日、京都府舞鶴市で開催されていた大相撲の春巡業において、土俵上で挨拶に立った多々見良三舞鶴市長が突然、倒れるという事態が発生しました。スタッフらが土俵に上がり、心臓マッサージなどの救命措置を行いましたが、その中には数名の女性が含まれていました。

 この時、行司が場内放送を行い「女性の方は土俵から下りてください」と数回にわたって女性に土俵から下りるよう促したということです。これに加えて関係者が女性に対して「下りなさい」と何度も指示していたとの報道もあります。
 動画投稿サイト「ユーチューブ」を見ると、現地で撮影されたと思われる映像がアップされており、その中では市長を助けようと女性が土俵に上る姿が確認できます。

 大相撲の土俵は「女人禁制」とされており、女性が土俵に上がることはできません。しかしながら、今回は人命がかかっている非常事態ですから、そのようなことを言っている場合ではありません。しかし、協会側は何度も女性に対して土俵から下りるよう指示をしていました。

 今回、市長は命に別状はありませんでしたが、一歩間違えば、人命が失われる可能性がありました。では、この行司をはじめとする相撲協会の関係者は、皆、人命を失ってでも女性を土俵に上げるべきではないという、ガチガチの原理主義者なのでしょうか。おそらくそうではないと考えられます。

sumopf7_s

会社の中を見渡せば同じような話が続々と・・・

 女人禁制のしきたりは相撲に限らず、様々な分野に見られますが、中には伝統とはいえないようなものも数多く見受けられま。相撲についても、かつては女性相撲もありましたから、明治以降に出来上がった単なる習慣である可能性が高いでしょう。

 しかし、習慣というのは恐ろしいもので、何も考えずにそれを毎日続けていくと、最後は思考停止に陥り、本人は自覚していなくても、絶対的な掟と化していきます。最終的には人命をないがしろにするような行動も平気で取ってしまうわけです。

 果たして、この話は相撲だけの特殊な事例なのでしょうか。筆者ははそうではないと考えます。

 周囲を見渡してください。会社のあちこちに意味不明の手続きがあり、それがしきたりや掟になっているケースはたくさんあると思います。
 なぜ、その手続きが必要なのか周囲に聞いても、誰も明確に答えられません。何度も聞けば組織のやっかいものとして批判されるでしょう。それにもかかわらず、しきたりは決してなくならず、組織の生産性を下げ続けます。

 こうした組織ではIT化を進めても効果がないどころか、逆に状況がひどくなることもあります。

 何も考えずに毎日を過ごすというのは、実は大変、恐ろしいことなのです。今回の出来事は、わたしたち全員にとって教訓にすべきでしょう。

PAGE TOP