経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 政治

日本が戦争に巻き込まれると考える人が増加した背景

 日本が戦争に巻き込まれる危険性があると考える人の割合が過去最高となりました。一方で、安全保障体制は現状のままでよいという人の割合も上昇しています。

基本的に国際情勢を反映している

 内閣府は3年に1回、安全保障に関する世論調査を行っています。最新の結果によると、日本が戦争を仕掛けられたり戦争に巻き込まれる「危険がある」と回答した人は85.5%となり過去最高となりました。

 「過去最高」といった情報を目にした時は、時間を遡ってデータをチェックすることが重要です。数字が継続的に上昇して過去最高になったケースと、上限変動の中で過去最高になったケースでは大きな違いがあるからです(参考記事「すべての情報リテラシーの基礎となる「タテ」と「ヨコ」)。

 過去の調査結果を見ると、1990年代までは「危険がある」と回答した人の割合は50%前後で推移していました。その後、数字が急上昇し、最近ではそれに拍車がかかっているようです。

 1970年代に数字が低かった理由は、当時の国際情勢が大きく影響していると考えられます。当時はデタントの時代と言われ、米ソ両国で融和的な動きが広がっていました。しかし、旧ソ連のアフガニスタン侵攻で事態は変わります。

 西側諸国がソ連に強く反発し、モスクワオリンピックをボイコットしたことで東西陣営の緊張が高まりました。戦争のリスクを感じる人の割合も60%に上昇しています。その後、ソ連が崩壊したことで、一旦は割合が低下するように見えましたが、再び、数値の上昇が始まります。
 ソ連なき後の脅威はイスラムテロでした。各地でテロが相次ぎ、不安が高まっていたところに9.11が発生。数字は一気に80%に達しました。

senso

孤立主義が元来の米国人の姿

 イラク戦争の収束に伴い、割合は少し下落しましたが、ここ数年は上昇傾向がさらに顕著となっています。最近の上昇は、やはり中国や北朝鮮による影響が大きいと考えられます。以前の脅威と比べてこの2国の問題はかなり身近ですから、その分、数値も上昇したものと思われます。

 では、戦争の危険に対して、日本人はどう対処すべきと考えているのでしょうか。

 日米安保や自衛隊を中心とした現状の安全保障体制でよいと考える人の割合は、戦争の危険性がある、とのグラフに沿った形で上昇しています。戦争のリスクを身近に感じるようになり、その対処方についても現実的に考えるようになったと解釈するのが自然でしょう。

 日本が米国の核の傘に守られているというのは、国際政治の世界では常識となっており、世論調査の結果もそれを追認した形です。

 しかし少々注意が必要なのはこれからです。トランプ米大統領は選挙期間中とはいえ、日米安保の見直しに言及するなど、従来の大統領とは異質の発言を行いました。また米国民の中で、他国の安全保障について米国が関与する必要はない考える人の割合が増えています。

 中国や北朝鮮の脅威が高まっていることを背景に、国内の一部からは、米国の軍事力に期待する声が上がっているようです。しかしながら、米国は無条件に日本を支援するとは考えない方がよいでしょう。米国はかつて孤立主義を掲げていた国であり(モンロー主義)、国民性としても他国への関心が極めて薄いという特徴が見られます。

 米国が日本にとって最大の友好国であり同盟国であることは明らかですが、それはあくまで双方の利害が一致すればの話です。米国は何かのきっかけで、他国への軍事支援を打ち切ったり、すべてをお金で解決するという決断を容易に行う国であることについても、わたしたちは理解しておくべきです。

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