トランプ政権における経済の司令塔であった、ゲーリー・コーンNEC(国家経済会議)委員長が辞任したことで、米国が保護主義に傾くのではないかとの懸念が高まっています(参考記事:「トランプ政権の経済政策を支えてきた、コーン委員長が電撃辞任」)
一般に保護主義的な貿易政策はデメリットが多いとされていますが、なぜそうなるのでしょうか。逆に自由貿易にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
絶対優位と比較優位は異なる
自由貿易にメリットがあるという話の根拠になっているのが、経済学における比較優位説です。
それぞれの国には得意なことと不得意なことがあります。一国ですべてを賄うのではなく、自国経済の中で相対的に得意なものに特化し、不得意なものは輸入した方が、経済全体の生産力が増加し、全員に利益がもたらされるというのが比較優位説の特徴です。
比較優位説はしばしば誤解を受けます。もっとも多いのは、「相手国よりも得意な産業に特化しなければならない」という解釈です。もしそうなら、他国より強い産業がない国は、何もできなくなってしまいます。比較優位はそうではなく、国内の産業の中で得意なものにシフトするという意味です。
例えば、日本のIT産業は米国のIT産業と比較すると劣っていますが、国内で比較すれば、農業よりも競争力があります。そうであれば、農業を重視するのではなく、ITに力を入れた方がよいという結論になります。
ちなみに相手国より「強い」「弱い」という概念は「絶対優位」と呼ばれており、「比較優位」とは区別されています。
保護主義になった場合、日本は大打撃を受ける
自由貿易とは、各国が自国の中で得意なモノにシフトすれば、強い国も弱い国も、両方、経済が発展するというメカニズムです。こうした理論をもとに米国はWTO(世界貿易機関)の設立を主導し、自由貿易を促進してきました。実際、そのおかげで、WTO設立以後の世界経済はめざましい勢いで成長しました。
この考え方でいくと、保護主義的な政策を採用した場合、米国も損をすることになります。確かにそうなのですが、保護主義的な貿易政策の下では、世界経済はあまり発展せず、どちらかというと各国による富の奪い合いに近い形になります。
そうなってくると、圧倒的な超大国で、エネルギーのすべてを自給できる米国は、絶対的には損をしても、相対的には有利になります。逆に日本や中国は極めて不利な状況に置かれることになるでしょう。米国のような国は、自国の成長をちょっと犠牲にするだけで、相手国を窮乏させることが出来てしまうわけです。
中国は今のところ静観ですが、EU(欧州連合)が鉄鋼とアルミの輸入制限に激しく反発しているのは、こうした理由からです。
日本は経済の多くを貿易に依存しています。もし米国が本当に保護主義に傾いた場合、日本はもっとも大きな打撃を受ける国のひとつとなるでしょう。