経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

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データの不備で国会紛糾の裁量労働制。肝心の中身はどうなっている?

 裁量労働制に関する不適切なデータをめぐって与野党の対立が続いています。関連報道も増えていますが、どれも情緒的なものばかりで、肝心の法案がどんな内容なのかはっきりしません。
 日本では何十年も前から、政府・与党は内容をロクに説明もせず法案をゴリ押し、野党はヒステリックに反対、メディアは情緒的な報道を垂れ流すという、同じパターンを繰り返しています。

裁量労働制では残業代を大幅に抑制できる

 政府は今国会に働き方改革関連法案の提出を予定していますが、その一部に含まれているのが、裁量労働制の範囲拡大です。今、国会で議論が紛糾しているのはこの部分です。

 裁量労働制とは、実際の労働時間が何時間だったのかにかかわらず、事前に定めた時間だけ働いたとみなす制度です。事前に定められた労働時間のことを「みなし労働時間」と呼びますが、この時間を超えて労働を行っても残業代は支払われません。

 みなし労働時間を事前にどう設定するのかで、具体的な残業代の額は変わってきますが、この制度を使えば、やりようによっては限りなく残業代をゼロに近づけることも不可能ではありません。したがって現状では、この制度を適用できる範囲が厳しく制限されています。

 具体的には、研究開発、ジャーナリスト、大学教授、弁護士といった専門職や、経営企画部門の社員など、一部の職種しかこの制度を使うことはできなくなっています。しかし、今回提出予定の法案では、この範囲をさらに拡大する内容が盛り込まれる予定です。具体的には「課題解決型の開発提案業務」と「裁量的にPDCAを回す業務」というものが追加されます。

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一般的な職種にも拡大される懸念が

 課題解決型の開発提案業務は、いわゆるソリューション営業、コンサル営業的な仕事が該当すると考えられています。一般的な商品の営業は該当しないとされていますが、どこまでをコンサル営業とするのかは微妙なところでしょう。
 もうひとつのPDCA型は、いわゆるPDCAサイクルを回して業務改善を行う職種ということになりますが、厳密に言えば、すべての管理業務にはPDCAがつきものであり、あらゆる職種がこの対象になります。解釈次第ではいくらでも適用範囲を拡大できるでしょう。

 これに加えて、裁量労働制には年収制限がありません。企業がその気になれば、多数の社員にこの程度を適用し、残業代を大幅に抑制することが可能となります。この制度は、現状の雇用環境を維持しながら、人件費を大幅に削減するための仕組みと思って間違いないでしょう。

 次回はこの制度の導入によって、日本の雇用環境や企業経営がどう変わるのかについて考えたいと思います。

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