経済評論家 加谷珪一が分かりやすく経済について解説します

  1. 経営論

差別化戦略は弱者が採用してこそ意味がある

加谷珪一の知っトク経営学 第9回
【差別化による競争戦略】

 競争戦略の中で、コスト優位の次にポピュラーなのが差別化戦略です。差別化とは、その名の通り、他社にはない付加価値を提供することで、他の製品やサービスとの違いをはっきりさせるというものです。
 商品企画や製品開発に関連した部署では、「他社との差別化要因は?」といった会話が日常的に交わされていることでしょう。

差別化戦略は弱い企業でも選択できる

 ひとくちに差別化と言っても、その方法は多岐にわたります。製品やサービスそのものに特徴を持たせるのは当然のことですが、マーケティング的な要素で差別化したり、製品の配送などロジスティクスで差別化するというやり方もあります。高いブランドを確立することも一種の差別化といってよいかもしれません。

 差別化を行うためには、多くの場合、追加コストが必要となりますから、一般的には数量を追わず、利益率を優先することになります。圧倒的なシェアを獲得できなくても、高い利益率を確保できればよいという考え方です。

 利益率が重視されるのであれば、前回、説明したコスト優位の戦略とは並立しません。一般論としては、コスト優位と差別化は同時に選択できないことになるわけです。しかし、これ以上コストを下げられないという環境でシェア争いを行う場合などには、コスト優位と差別化が同時に実施されることもあります。

 またコスト優位の戦略と異なり、差別化は圧倒的な経営体力を持っていない企業でも実現可能です。コスト優位は、強者の戦略だと説明しましたが、差別化を実施するのは、必ずしも強者である必要はありません。同じ業界に属するすべての企業が差別化戦略を実施することも可能です。

 差別化はベンチャー企業の経営において基本ともいうべき戦略になっていますから、むしろ経営体力のない企業ほど、差別化を実施する意味があるでしょう。
 先行企業の製品やサービスに対して徹底的に差別化を行い、違いを求める顧客の中で圧倒的なポジションを得ることができれば、小さな企業でも急成長することが可能となります。

Copyright(C)Keiichi Kaya

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多くの差別化要因はすぐに模倣される

 しかしながら差別化戦略を実現するのは容易なことではありません。差別化を実施する際に注意しなければいけないのは、差別化要因を決めるのはあくまで顧客の側だという現実を理解することです。

 自分では競合他社と差別化できていると思っていても、顧客がそう思わなければ意味がありません。この罠に陥る企業は意外と多いのです。
 例えば、アマゾンのプライム会員向けの短時間配送サービスは、うまく機能している差別化要因のひとつですが、これを差別化要因として確立させるためには、顧客ニーズを徹底的に見極める必要があったはずです。

 アマゾンのプライム会員のように追加コストを払っても、短時間の配送を望む顧客もいますし、時間はかかってもよいので無料がよいという顧客もいます。さらには配送時間について無頓着な顧客もいるでしょう。

 アマゾンの場合には、自社の顧客層が、配送時間に対して強い要望を持っていることが確認できたからこそ、こうした特別サービスを実施できたわけです。顧客層が合わないネット通販事業者が同じことをしても、それが他社との圧倒的な差別化要因になるのかは分かりません。

 これに加えてライバルによる模倣にも注意する必要があります。

 差別化要因の中には、競合他社が簡単に真似できるものも少なくありません。もし、その差別化要因に効果があると判断された場合、他社はそのやり方を確実に模倣してくるでしょう。他に差別化要因がなければ、たちまち競合に追いつかれてしまいます。

 かつて消費者金融業界でナンバーワンだった武富士は、無人式の自動契約機では後発でした。しかし、無人式がうまくいくと分かった段階で、同社は先行企業の仕組みをそのまま模倣。たちまち他社を追い抜きました。
 この事例は、企業体力でカバーできるような差別化要因は、すぐに解消されてしまう可能性があることを示しています。

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