このところ、日本企業による海外の超大型買収が相次いでいます。なかでも目を引くのは、ソフトバンクによる米国第3位の携帯電話会社スプリントの買収と、サントリーによる米ビーム社の買収でしょう。
ソフトバンクはこの買収に2兆2000億円、サントリーは1兆7000億円を投じています。非常に思い切った決断なのですが、この二つの買収は、本質的に全く異なっています。リスクを取るということはどういうことなのかを理解する上で非常によい教材といえるでしょう。
ソフトバンクはリスクを取った
このふたつのケースで、本当の意味でリスクを取っているのはソフトバンクの方です。
スプリント社は全米3位の携帯電話会社で3兆4000億円ほどの売上高がありますが、1位のAT&Aは12兆円、2位のベライゾンは11兆円の売上高があり、スプリントは2社に大きく水をあけられた状態にあります。
しかも、2007年以降、6期連続の赤字で経営状態はボロボロです。スプリントは、旧スプリント社と旧ネクステル社が合併して出来た会社なのですが、この融合がうまくいかず、特に旧ネクステル側の顧客の解約が続いている状態だったのです。
しかし、ソフトバンクの孫正義社長はここに目を付けました。ネクステル側の解約が一段落し、膿を出し切ってしまえば、追加の設備投資を行って成長軌道に乗せられると考えたわけです。
携帯電話事業というのは、最初に巨額の設備投資が必要なので、非常にハードルが高いビジネスなのですが、顧客数がある一定のレベルを超えると、そこから先はすべてが利益となるという特徴があります。復活した時の利益は極めて大きいのです。
スプリントの場合、経営が改善すればもう1社を買収することで、一気に2位のベライゾンに近づくというオプションが残っています。
経営を改善させることができるのかは、やってみなければわかりません。
うまくいかない可能性もありますが、うまくいった時には極めて大きな利益をもたらす可能性があり、ここはリスクを取る価値が十分にあるわけです。この買収が成功するのかはともかくとして、孫社長はリスクの取り方に関してはやはり天下一品です。
サントリーの買収案件はソフトバンクとは異なる
一方、サントリーの買収は少し様子が違います。ビーム社は、有名ブランドのウイスキー「ジムビーム」などを展開する米国のウイスキー大手です。米国の酒類のマーケットは巨大で、かつ極めて安定しています。よほどのことがない限り、こうした会社の経営が傾くことはありません。
しかし、安定的なビジネスですから、買収によって莫大な利益を得られるわけではありません。今回の買収金額は、ビーム社の1年間の利益の42倍もの水準です。計算上は42年経たないと、買収資金を回収できないわけです。
サントリーがそれでもこの企業を買収したのは、大きな利益を得るためというよりは、グローバルな事業基盤を買うためと考えられます。
日本は人口が減少しており、国内市場は小さくなるばかりです。資金のあるうちに、グローバルに展開する安定的な企業を買収し、ゆくゆくは、そこにサントリーの事業全体の軸足を移していくつもりかもしれません。
つまり、ソフトバンクのように、大きなリスクを取って、大きな利益を得ようとした案件ではないのです。今回の2社を比較して、ソフトバンクの買収が無謀だという声もありますが、そもそも同じ土俵で比較する対象ではないと考えるべきです。
不動産に例えるなら、問題のある住人がいることで、多くが空き家になってしまったマンションをまるごと買収するのか、都心の高級物件を買うのかという違いです。
問題のあるマンションはうまくテナントを入れ替えれば、莫大な利益をもたらします。
一方、都心の高級物件は値下がりもしませんし、テナントもすぐ確保できますが、何しろ買値が高いので、資金を回収するには何十年もかかります。
両者は同じ不動産でも、まったく異なった投資対象なのです。