テスラモーターズCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏が率いる宇宙開発ベンチャー「スペースX」が、大型ロケットの打ち上げに成功しました。今回の打ち上げ成功は画期的と言われていますが、スペースXのロケットは、どこがスゴいのでしょうか。
今回、打ち上げに成功したのは「ファルコンヘビー」というロケットです。燃料にはケロシン(灯油)、酸化剤には液体酸素を使用しており、低軌道上に約64トンの重量物を投入することが可能です。
この打ち上げ能力は、かつて米国の主力ロケットだったスペースシャトルの約2.5倍、日本のロケットであるH2Bの約4倍もあります。ファルコンヘビーを超える能力を持った実用ロケットは、人類を月に送ったアポロ計画で使用されたサターンVだけです。
しかしながら、ファルコンヘビーが画期的とされるのは、打ち上げ能力の高さではありません。お金さえ無尽蔵に投入すれば、高い打ち上げ能力を持ったロケットは開発できます。注目すべきなのは、こうした巨大なロケットをベンチャー企業が開発したという点です。
かつての宇宙開発には国威発揚という目的もあり、採算を度外視して開発が進められてきました。中国やインドといった新興国では、今でもコストを考えずに開発を進めています。
しかし宇宙開発の先進国である米国においては、国家が主導する途上国的な宇宙開発はもはや過去のものとなっています。かつて国家主導の宇宙開発を一手に担ってきたNASA(米航空宇宙局)の役割は大きく変わり、今では市場メカニズムが大胆に導入されています。
ファルコンヘビーは徹底的なコスト削減策が施されており、実用化に成功すれば、スペースシャトル時代の10分の1、現行ロケットとの比較では3分の1のコストで打ち上げが可能です。ここまでコストが削減されると、ビジネス面での活用は一気に進むでしょう。
もっともコスト削減には課題もあります。
ファルコンヘビーの第一段ロケットは3本で構成されていますが、このうち2本は切り離し後、予定通り、地上に向けて落下し、エンジンの再点火(逆噴射)によって無事、着陸に成功しました。しかし、残りの1本はエンジンの再点火に失敗し、海中に落下してしまいました。
すべての第一段ロケットを回収し、再利用できないとコストが上がってしまいますから、3本を確実に着陸させることは極めて重要です。もしこの課題を完全にクリアできれば、宇宙開発はまったく新しいフェーズに突入するでしょう。国家主導体制を続けている日本の宇宙開発にとっても、何らかの見直しが必要となってくるかもしれません。