日銀の黒田総裁の続投がほぼ固まりました。黒田氏の再任は既定路線であり、再任後は徐々に量的緩和策の縮小に向かうと市場関係者は見ていました。しかし、副総裁の人事案を見ると、必ずしもそうではなさそうです。副総裁人事次第では出口戦略には向かわない可能性も見えてきます。
事実上の出口戦略に入るというのが市場の見立てだったが・・・
安倍政権は4月に任期が切れる日銀の黒田東彦総裁について、続投させる人事案を固めたと報道されています。政府・日銀の2%の物価目標も据え置かれる見通しで、従来路線が継続することになりました。
黒田氏の続投は既定路線でしたが、副総裁人事案を見ると、少し意味が変わってくるかもしれません。市場関係者の大方の見通しは、黒田氏は続投となるものの、量的緩和策は徐々に縮小し、事実上、出口戦略に舵を切るというものでした。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)はすでに量的緩和策を終了しており、金利の引き上げフェーズに入っています。日本の長期金利も上昇する可能性が高く、量的緩和策を継続することが難しくなっています。出口戦略の転換を明言してしまうと市場が混乱しますから、事実上の撤退戦に入るというのが大方の予想だったわけです。
ところが今回の副総裁人事案を見ると、そうではないようにも受け取れます。
黒田氏と共に量的緩和策を強力に推進してきた岩田副総裁は再任されない見込みです。岩田氏は1月の講演で「副総裁には再任されない」と自らの進退に関する発言を行いました(正式な記録には記載されていません)。日銀幹部が進退について発言するのは異例のことであり、執行部人事が不本意であった可能性を示唆しています。
リフレ派の岩田副総裁が退任し、代わりに超リフレ派が就任?
岩田氏と入れ替わりで副総裁に就任すると噂されているのが、安倍首相の経済ブレーンとして知られる本田悦朗氏です。本田氏は超リフレ派と呼ばれており、量的緩和策についてかなり積極的な立場です。
就任当時は、岩田氏もかなりのリフレ派だったわけですが、岩田氏では不十分という判断だったのであれば、量的緩和策の後退はあり得ないということになります。
本田氏は一時、黒田総裁の後任として総裁に就任し、量的緩和策を強化するというシナリオも浮上していましたから、従来と比較して出口戦略が後退したことは間違いないでしょう。
現在、米国は利上げモードに突入しており、ECB(欧州中央銀行)も景気回復を背景に、出口戦略に舵を切っています。ここで日本が量的緩和策を継続することになれば、米国との金利差は一気に広がりますから、円高に傾きつつあった為替も再び円安に向かう可能性が高まってきます。
金利の安い日本でお金を借りて、米国などに投資するという、いわゆるキャリートレードを誘発する可能性もありますから、場合によっては米国の株式市場にも影響を与えるでしょう。
また市場に供給されるマネーの量がさらに増えますから、長期的には日本のインフレを加速させるリスクもあります。
多くの市場関係者は、日銀が世界の趨勢に合わせて、事実上の出口戦略に舵を切ることをメインシナリオにしてきましから、場合によってはシナリオの練り直しが必要となるかもしれません。