ソフトバンクが、人と対話できるロボット「Pepper」を発表しました。日本のロボット市場もようやく面白い展開になってきました。
Pepperの画期的な点は機能ではなくビジネスモデル
Pepperは、人の声や表情を認識する機能を搭載しており、人間とスムーズにコミュニケーションを取れることがウリとなっています。確かに、Pepperの発表会場では「こう見えてプレッシャーに弱いんです」などと発言して、会場を大笑いさせていました。
しかし、人とスムーズなコミュニケーションを取ることそのものは、特に目新しい技術ではありません。Pepperは非常に画期的な商品なのですが、それは機能面ではなく、むしろビジネス・モデルの方です。
ソフトバンクは、Pepperのプログラミング仕様を公開しています。つまり、誰でもPepperを制御するプログラムを作成することができるわけです。皆が作成したプログラムを公開して、世界中に配布するためのWebサイトもオープンする予定です。
これは、いわゆるオープン戦略と呼ばれているもので、あえて仕様を公開し、多くの人を巻き込み、一気にデファクトスタンダードを握ってしまおうというものです。多数の開発者を参加させることで、思いもしなかった、画期的な用途が開発できる可能性もあります。
こうしたオープン戦略をソフトバンクが採用するのは、ロボット市場として家庭用途を重視しているからです。
多くの人は「本当に家にロボットが普及するの?」と思うかもしれません。確かに、Pepperのような大きなロボットが、各家庭に入り、洗濯したり掃除したりしてくれることにはならないでしょう。
むしろロボットの用途として大きな期待を寄せられているのが、スマホと連動した、あるいはスマホに変わる利用者とのインターフェースです。家庭に存在する、あらゆる電子機器を統合し、利用者との窓口になることが期待されているのです。
ロボットとクラウド・ビジネスは背後でつながっている
お掃除ロボットのルンバはすでに有名ですし、最近では人工知能を持った家電も登場しています。
LGが発売した最新の家電製品はLINEとつなげることができ、利用者と会話が可能です。「今、冷蔵庫に何があるの?」とLINEで聞くと、「ビールが2本あります」と返事をしてくれます。しかしこうした製品やサービスはまだ個別に存在しているだけです。
しかし、ロボット(R2D2のようなものが、高さ20センチくらいになったものを想像してください)が各家庭に1台ずつ普及し、こうした家電やパソコン、スマホ、あるいはネット上の各種サービスと連携されるとしたらどうでしょう?
例えば冷蔵庫の中を常にチェックし、時々ロボットが「ビールを買い足しておきますか?」と聞いてくるでしょう。さらに「ネット買うのなら、僕がアマゾンで注文しておきます」とまで言ってくれるはずです。
このような便利なサービスが、おそらく非常に安価な値段で利用できることになるはずです。当然ですが、そうそう、都合のよい話は存在しません。
わたしたちは安価なサービスと引き換えに、何かを事業者に提供しなければなられない可能性が高いと考えてよいでしょう。それは、わたしたちのプライバシーです。
ソフトバンクのロボットは、実はネットに常時接続され、クラウドで制御されています。理論的には、利用者がロボットとどんな会話を行い、ロボットがどんな作業をしたのか、システム上で管理できるわけです。
もしかすると、近い将来、こうした情報を全部提供すれば、ロボットがタダで使えます、といったビジネスモデルも成立しているかもしれません。
このようなビジネスは、実はグーグルやフェイスブックが、虎視眈々と狙っているところです。特にグーグルは世界中のロボットメーカーを買い漁っています。
しかしソフトバンクは通信回線という強力な武器を握っています。ロボットの分野で家庭に入り込むことができると、場合によってはグーグルなどから、IT分野における主導権を奪回できる可能性もあります。
プライバシーが丸裸という、少々憂鬱な世界ではありますが、一方でこうしたサービスが実現した場合には、インターネットが普及した時以上のインパクトを社会にもたらすことになるでしょう。