内閣府は2015年12月8日、2015年7~9月期のGDP(国内総生産)改定値を発表しました。速報値ではマイナス0.2%だったのですが、改定値ではプラス0.3%と上方修正されました。
数値が上振れる割合としては特別に大きなものではありませんが、それでもマイナスからプラスに転じるというインパクトは無視できないでしょう。このところGDP統計の精度の低さを指摘する声が聞かれるようになっていますが、やはり何らかの精度向上策が必要なのかもしれません。
また、今回の上方修正に際しては、GDP統計を統括する甘利経財相が、事前に上方修正の可能性について言及するというハプニングがありました。こうした面も含めて、日本におけるGDP統計の扱いには、いろいろと改善すべき点が多そうです。
設備投資の上振れでGDPは上方修正
今回、GDPが上方修正されたのは、設備投資の数値が上振れしたことが主な要因です。GDPの改定値には、速報値の発表後に公表される法人企業統計の結果が反映されますが、同統計における設備投資が大幅増となったことから、GDP統計も上方修正となりました。
法人企業統計の結果から、最終的なGDPが上方修正される可能性が高いことは、誰でも事前に予想できたことですが、担当大臣が言及するとなると話は別です。
甘利氏は、発表の2日前にテレビ番組において、GDP改定値が「ゼロになると思う」との発言を行っています。経済担当大臣は職務上、GDPの数値を事前に知る立場にありますから、甘利の発言に市場関係者は驚きました。
甘利氏は翌日の会見において、あくまで民間の調査結果を踏まえたものであることを強調し、担当大臣としてのものではないとの見解を示しました。しかし、甘利氏のこの発言は、経済担当大臣としては少々問題があると言わざるを得ないでしょう。
一般的に、経済担当大臣が、私見とはいえ経済指標の予想を事前に行うことは通常あり得ません。担当大臣は経済統計の責任者ですから、当然、その数字を事前に知る立場にあります。数字を知っていた上で、見通しを語ったのだとすると、それは市場の操作につながる可能性があるからです(発言内容が本当かどうかに関わらず)。
大臣は立場上、数字を知っておく必要がある
甘利氏は、この点を指摘されると、発言は民間予測に基づく私見であり、政府としてGDPの数値を知る立場にはないとの見解を示しています。しかし、もしその話が本当だとすると、今度は別な問題が生じることになります。
大臣という国政の最高責任者の一人が、官僚が作成する経済統計の数字を知らされないというのは、民主国家の運営上あってはならないことです。実際に大臣が数値を事前に知っていたかどうかに関係なく、立場上、大臣はいついかなる時でも、官僚の仕事をチェックできる状態でなければなりません。
したがって、大臣が統計内容を知る立場にはないという発言は、民主国家のルールとして、本来であれば、成立し得ないものなわけです。そうであればこそ、大臣は発言を自粛するという論理が成立します。
おそらく甘利氏はこのあたりについて、あまり明確に意識していない可能性が高く、悪気はないのかもしれません。しかし統治機構における責任者が、与えられた権限の行使に対して自覚が薄いというのはやはり問題でしょう。
経済システムや市場の信頼性というのは、毎日の地道なオペレーションによって培われるものです。今回のようなケースがあったからといって、すぐに日本の経済統計や市場運営に対する信頼性が揺らぐという話になるわけではありません。しかし、こうした小さな綻びが積み重なると、やがて大きな欠損へとつながっていくのも事実です。
GDPは、その国の経済の根幹をなす重要な統計です。テクニカルな意味での精度向上も含めて、日本のGPD統計の取り扱いについては、改善すべき点が多そうです。